さて、更に旧道を徒歩で少し進むと、人工的な丘が現れます。旧道は、車止め柵で通せんぼされていますので、入れるのはここまでです。勿論、侵入はしません。ここは原子力発電所です。なかには警備員が90人もいて、監視カメラもたくさんあります。そもそも原子力安全は私が最も尊重するものです。
奥の人工的な丘は、標高(EL)100mくらいありそうです。これはなんでしょうか。私は最初、柿が谷(かきがたに)になぜロックフィルダムを造るのか不思議で仕方ありませんでした。
はい、これは谷を埋めちゃったのです。NRA(原子力規制委員会)は、この奥の柿が谷にある二本の沢が土石流を起こし、発電所内施設に甚大な影響が生じうるとして対策を命じました。
四国電力の出した答えは、この谷を残土捨て場として全部埋めるというものでした。まるでSimCity2000です。原子力発電所には縁起が悪い例えですが。
柿が谷の埋め立ては、たいへんに大規模なものですので、工事開始前の写真と共に経過を遡りましょう。
柿が谷は、二股の谷で県道は柿が谷橋によって谷をまたぎ、トンネルに入ります。橋は、伊方発電所第二動線として改良なった県道255号線に残る最大の弱点で、冬期は凍結し、大地震の際には通行止めや、通行規制となる可能性があります。
凍結はともかく、耐震性の向上策として、橋脚を谷と一緒に埋めてしまい、土石流対策と残土対策の一石三鳥を目指したものとも言えます。
但し、もはや地形は完全に破壊されますので、復元は不可能ですしたいへんなお金がかかります。また埋め立て地はロードローラなどで押しつぶしてはいますが、安定するまでには10年単位の時間がかかりますので、使い道がありません。
これは最近忘れられていますが、60年代、70年代の原子力発電所は、誘致の際に原子炉運用が終われば完全解体後、原状回復するという説明がなされていたことが多いのですが、伊方発電所ではもはや原状回復は不可能です。
原子力発電所は、寿命になったら完全解体して、新しい原子炉に建て替えるという考えは、昭和50~55年頃に現れたもので、古い発電所では解体して原状回復するという説明がなされている場合があるのです。ただし、この件は今更どうしようもないですし、伊方発電所1号炉建設の際に寿命後どうするか説明がなされていたかも今は分かりません。
そして、発電所裏側だけでもこのような大規模工事を行って獲得できるものがたったの900MWe級発電機一基のみで残余寿命が15年、延長しても35年という問題があります。費用対効果は大きく劣化することになります。
たったの900MWeで寿命が半分以下の原子炉のためにこれだけの自然改造工事を行うことが妥当なのか。蓮池さんとこの点を論じましたが、今では天然ガス火力があり、妥当性はきわめて怪しいと言えます。
一方、四国電力は伊方3号炉を守るためにたいへんな努力と投資をしていることがよく現れていると言えます。
柿が谷埋め立て工事(海側) 2019/6/10牧田撮影
更に奥に進むと柵がしてあり、奥にロックフィルダムのようなものが現れる。現時点でEL=110mまで埋め立てている模様
柿が谷埋め立て工事(海側) 2017年4月18日 牧田撮影
立ち入り禁止柵は前写真と同じ地点にある。深い谷であったことがよく分かる。正面に見えるのは県道255号線柿が谷橋
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柿が谷埋め立て工事(海側) 2016年10月11日
この時点では、また工事が始まっておらず柿が谷橋の後ろまで行けた。写真は前写真の立ち入り禁止柵の地点から少し奥に入った場所。この谷がすべて埋められつつある。正面に見えるのは県道255号線柿が谷橋
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柿が谷橋より見た埋め立て工事(山側)2019/6/11牧田撮影
木は伐採され、谷はほぼ完全に埋められている
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柿が谷橋より見た埋め立て工事(山側)2017年4月18日牧田撮影
元々は、山桜の美しい谷であった。写真から分かるとおり、柿が谷橋は上り坂で、北斜面であるので冬期は凍結することがある
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柿が谷橋より見た埋め立て工事(海側)2019/6/11牧田撮影
埋め立て工事は継続中であり、柿が谷橋が埋まりそうな勢い。発電所構内が埋め立てによって目隠しされつつある
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柿が谷橋より見た埋め立て工事(海側)2017年4月18日。牧田撮影
沢を車より大きなパイプ(写真中央の黒いイモムシみたいなもの)により暗渠化することが分かる
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柿が谷橋より見た埋め立て工事(海側)2016年9月11日
着工前。中央の丘の上には、電源車などの多重防護の第四層に相当する資財が置かれている。
海に面して左から2号炉、3号炉、1号炉、丘の上の尖塔状のものは、記念モニュメント
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埋め立て前の柿が谷橋(最奥部・トンネル側)2016年3月17日
私の「へこみデミオ」で撮影地点まではいることができた。非常に高い橋で、愛媛県道255号線の動線最大の弱点と言える。四国電力の出した答えは、「うめる」だった
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埋め立て前の柿が谷橋2016年3月17日
前写真の反対側より撮影。県道255号線は、柿が谷橋を経てトンネルに入る。旧県道は、正面の橋脚左で止められている。伊方3号炉建設に伴い、旧県道は付け替えられた。撮影時点では橋脚右側のフェンスより右側が四国電力の敷地だった
今回は、伊方発電所の裏側から蓮池さん一行を案内したところまでをご紹介しました。我々は、ここから県道に戻り、大部分埋まってしまった柿が谷橋を渡って伊方発電所の表側に向かいました。
表側正門で、蓮池さんは更に驚くことになります。我々には見慣れた景色が、蓮池さんにとっては余りにも新鮮だったのです。
次回はそこから始まります。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』番外編:蓮池透氏四国リレー講演会1
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado >
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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