この軍事蜂起を機に、マドゥロは政権を放棄してキューバに向かう予定であった。その後、グアイドーをマドゥロ大統領政権下の国防大臣ヴラディミル・パドゥリノ、最高裁長官マイケル・モレノ、国家警備隊名誉会長イヴァン・ラファエル・エルナンデス・ダラらが迎い入れる予定であった。ところが、その計画に待ったをかけた人物がいた。制憲議会の議長で軍人出身のディオスダド・カベーリョである。
なぜなら、マドゥロの政権が崩壊すればカベーリョは最終的には米国に送られて裁判を受けることになるのを知っているからである。彼はベネズエラの軍部が支配するカルテルのリーダーで、米国の麻薬取締局(DEA)は彼を逮捕して米国で裁くことを強く望んでいるからである。それを避けるためには、マドゥロ政権をこのまま継続させることが必要なのである。
しかも、カベーリョはチャベスがクーデターを遂行した時に一緒に参加した一人で彼を信望する軍人は今も多くいる。特に麻薬に関与している将軍連中の間では彼は今もリーダーである。彼は軍事蜂起が起きていた隙間に彼の配下の軍人を動かして米国、ロシアそしてマドゥロの側近がプラニングしていたことを潰しにかかったのである。それを感知したロシアは当初の米国との合意プランから手を引いたのである。
カベーリョが政権に関与している間はベネズエラから負債の返済を受けることは不可能と判断したのが理由だ。
この出来事に関係させて、ジャーナリストでベネズエラ電子紙『El Nuevo País』の副社長フランシスコ・ポレオ は「ロシアはクリミアの併合を米国のトランプが黙認するとし、その交換条件としてロシアのプーチンはベネズエラの民主化を容易にさせることに合意した」と述べている。ところが、カベーリョの干渉でそれが実現できなくなったのである。
しかも、カベーリョはベネズエラの諜報組織Sebin の長官にグスタボ・ゴンサレス・ロペス将軍を就かせて反対派の議員を徹底して逮捕する動きを積極的に展開するようになっている。ということから、ベネズエラの政権内部はマドゥロとカベーリョの対立が起きているということなのである。(参照:「
El Nuevo País」)
そこでマドゥロはその打開策としてオスロの協議への参加を決めたのである。グアイドーも米国CIAからの指示は受けているが、当面は米国からの軍事介入は期待できないということで同じく一つの打開策としてオスロの協議に関心を示したというわけである。
また、反政府派にも内部で分裂が起きている。国民議会のフリオ・ボルヘスがツイートでオスロの協議についてメディアで初めて知ったと述べて、事前に知らされなかったことを皮肉った。彼は現在コロンビアに亡命している。(参照「
El Pais」)
マドゥロ政権はいずれ資金的に行き詰まって崩壊するはずだ。それまでにどのように展開して行くか未知数である。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身