7年前から拡大してきたネット世論操作産業が世界の選挙を蹂躙する
同レポートはネット世論操作の対象地域が広いことから、共通した思想的な背景があるのではなく経済的な便益が狙いだと考えられている。つまり
特定の政権、政治家、政党から依頼を受けてネット世論操作を実行している可能性が高い(そもそもアルキメデスグループのページに請け負っていると書いてある)。
つまり、
7年前から私企業が利益のために世界中から依頼を受けてネット世論操作を行っていたことになる。
アルキメデスグループはテルアビブに本社を置くコンサルティングとロビー活動を行う企業で、クライアントの望むように「現実を変える」のだという。デジタル・フォレンジックラボのGraham Brookieによると、同社はフェイクニュースを拡散するネット世論操作企業に他ならない。ロシアがやったようなネット世論操作を、金儲けのために請け負う企業が増加しており、民主主義を脅かしている。
アルキメデスグループはネット世論操作市場に1プレイヤーに過ぎない。先だって公開されたNATO Strategic Communications Centre of Excellenceのレポート(参照:
『世論操作は数十セントから可能だった。NATO関連機関が暴いたネット世論操作産業の実態』–HBOL)では、ネット世論操作産業が広がっている実態を明らかにした。
このレポートでは市場を3つにカテゴライズしていた。アルキメデスグループはこのカテゴリーの
「オフライン:リアル世界での直取引」でハイエンドに当たると考えられる。
レポートではハイエンド企業を見つけて依頼するのは難しいと書いてあったが、アルキメデスグループには当てはまらない。彼らは堂々と自社のウェブサイトを持ち、直接的な表現は避けているが、明らかにネット世論操作を請け負うことを表現している。「選挙を勝利に導く」、「クライアントのためにあらゆる手段を講じる」、「世界規模でのキャンペーンを成功に導く」、「大規模なSNSのマネジメント」、「無制限の規模のアカウントの作戦を実行」といった言葉からよくわかる。なお、 Archimedes Tarvaというツールを用いてネット世論操作を行っているらしい。もはやネット世論操作企業は自らの本性を各層ともしなくなっている。
以前の記事『
極論主義とネット世論操作が選挙のたびに民主主義を壊す』)で書いたように、ネット世論操作はアフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアを中心に猛威を振るい、エセ民主主義化が進んでいる。ネット世論操作産業はそれを後押しし、エセ民主主義の広がりとともにその市場も拡大している。
日本の政権党が国際的なネット世論操作企業に依頼する可能性は高い。その時、野党やメディアは告発はもちろん発見することもできないだろう。なにしろいまだに国内のネット世論操作の実態レポートがひとつも存在していないのだ。この分野で日本は世界でもっとも遅れている。
ちなみにアルキメデスグループについての記事を掲載している日本語の新聞はない。The Japan Timesと、なぜか毎日の英語版では記事になっている。
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」
<取材・文/一田和樹 photo by
Anthony Quintano via flickr (CC BY 2.0)>
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『
フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている