女性が逃げられなくなる、つまり「自分の物」になったときに、少なくない数の日本男性はモラ夫になる。私は、夫がモラ夫になるきっかけ/事象を「モラスイッチ」と呼んでいる。モラスイッチの典型は、結婚、第1子、第2子の出産、マイホームの取得、昇進などである。
30代のある夫婦は、勤務先が同じで共働きだった。結婚後も、夫は、当然のように家事を分担した。掃除、洗濯の分担は、妻よりも多かったと妻も認めている。ところが、第1子を出産したとたん、夫のモラが始まった。子の出産がモラスイッチだったのだ。
なぜモラスイッチが入ると、モラ夫になるのか。モラスイッチとは、モラ夫予備軍である男性が、自らを家長/支配者と認識し、自らの支配を始めるきっかけ/合図となる事象なのではないか。
結婚、子の出産、マイホームの取得、昇進など、典型的モラスイッチは、いずれも幸福へのステップアップのはずだ。ところが、スイッチの入ったモラ夫は、妻子を支配し、家庭を不幸にし、結果、自らをも不孝に陥れてしまう。その結婚観、男女観には歪みがあると言うしかない。
ところで、日本のセックスレス夫婦の割合は5割程度と言われている。セックスレスでも仲の良い夫婦がいるのは当然である。しかし、仮に、セックスレス夫婦を離婚予備軍と仮定すると、日本の結婚の少なくとも半数は失敗しているともいえる。実際、日本では、3組に1組が離婚する。
そして、私の30年の離婚実務の経験から、離婚案件の大半は、夫によるモラに離婚の原因があると言って間違いない。
結婚前にモラ夫を見抜くためには、思想性をチェックせよ
さて、結婚前に、ある男性がモラ夫であるかどうか見抜くことはできるだろうか。私の理解では、「モラ夫」とは、「男尊女卑を背景として、妻に対する支配を確立・維持・拡大しようとする夫」である。
したがって、ある男性がモラ文化(モラ夫を育て許容する、男尊女卑などの社会的文化的規範群)に親和的/擁護的かどうか、その程度、妻/女性を支配の対象と捉えているかどうかがわかれば、モラ夫ないしモラ夫予備軍であることが分かるはずだ。
モラチェックで個々の不幸を予防するだけでなく、モラ夫を育て、許容するモラ文化を変えていかないと、日本の結婚は幸せにならない。生涯未婚率は改善せず、少子高齢化を止めることはできないだろう。
まんが/榎本まみ
【大貫憲介】
弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『
入管実務マニュアル』(現代人文社)、『
国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『
アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし~モハメッド君を助けよう~』(つげ書房)。ツイッター(
@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中