なぜ、AT車はブレーキの踏み違いが多発するのか。その対策を考える

それでもAT車が増える背景には人手不足が

 しかし、こうしたドライバーからの不評をよそに、昨今、AT車や「セミオートマチック車(AMT車)」の導入を検討する物流・バス企業が急増。それに伴いトラックメーカーも次々にAT・AMT車の製造販売をするようになってきている。  その理由は、業界が抱える「人手不足」にある。  近年、物流やバス業界は、深刻なドライバー不足や現役ドライバーの高齢化に陥っており、人材確保のため様々な取り組みがなされているのだが、中でも積極的に取り入れている対策の1つが、AT・AMT車の導入なのだ。  警察庁が発表した平成30年運転免許統計によると、同年に普通自動車免許の試験を受けた受験者のうち、約66%がAT限定免許。つまり、業界で主流となっているMTのトラックやバスを運転できるドライバーは、免許取得の時点で34%に絞られてしまうのである。  そのため各企業、難しい運転技術が必要ないAT車を積極的に導入し、AT限定免許しか持たない人の他、高齢者や女性にもドライバー採用の幅を広げ、人材獲得を狙っているというわけだ。  中には、保有するMT車をAT車に総入れ替えした物流業者や、「AT限定の大型自動車免許の創設」を期待する声も出てきている。  こうしたバスやトラックのAT車化により、将来考えられるのが、今回の三ノ宮のような「大型車による踏み間違い事故」の増加だ。  今まではMT車率が高く、トラックやバスでの踏み間違いは起こりづらい状況にあったのが、AT車が増えることで、今回のような事故が増える恐れがある。そこに「ドライバーの高齢化」が重なれば、なおさらだ。  乗用車よりも図体の大きい大型車が踏み間違いを起こせば無論、事故の規模や被害も大きくなる。  実際、三ノ宮事故で出ていたスピードは、事故時の動画を見るに、30km/h前後程度。それでもあれだけの被害が出たのは、やはり大型自動車だったからという感が否めない。

「左足ブレーキ」が現時点での最大限の対策?

 こうしたAT車によるアクセルとブレーキの踏み間違いに対し、改善策見出そうとする動きはかなり昔からあった。  今では「誤発進防止システム」や「衝突防止装置」、アクセルとブレーキを同時に踏んだ際にブレーキを優先する「ブレーキ・オーバーライド・システム」などが搭載されたクルマが世に出始めてはいるが、車種や天候、道路状況によっては作動しないことも多く、現状、機械に100%頼れるまでには至っていない。  そんな中、走行中に遊びほうける左足をブレーキ役に使い、「一脚一役」で踏み間違いを防止するドライバーが昨今増えつつある。いわゆる「左足ブレーキ」だ。  左足でペダルを踏む感覚に慣れる必要があること、そして、そもそも現在のクルマはブレーキを左足で踏む構造になっていないことから、専門家などからは推奨されていないが、実際左足ブレーキをしているドライバーからは「右足だけの運転より安全性は高い」などの声が挙がっており、ネットでは否定派と意見をぶつけ合っている。  筆者自身も、現在のクルマでの左足ブレーキには賛成し難いところだが、事故が起きる度に踏み間違いに対する議論がなされては、根本的な改善策が見出されてこなかった現状に鑑みると、「クルマ」や「クルマの運転」には、左足ブレーキに限らず、何らかの大きな方向転換が必要になってきている時期ではあると感じる。  MT車の流れを継ぎ、どちらとも右足で踏まれるAT車のアクセルとブレーキ。  AT車の比率が高まる時流ならばいっそのこと、「誤発進防止システム」などを取り付ける前に、左足用のブレーキを搭載したクルマを開発したほうが、根本的な事故削減に繋がるのではと、減らない連続交通事故から思うところだ。 【橋本愛喜】 フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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