なぜ、AT車はブレーキの踏み違いが多発するのか。その対策を考える
前回は、その池袋事故から「高齢者ドライバーが免許更新時に受ける認知機能検査の甘さ」について紹介したが、今回は、頻発するオートマチック車による「踏み間違い事故」の原因と、池袋事故の翌日に発生した兵庫県三ノ宮市のバス死亡事故(以下「三ノ宮事故」)から垣間見える業界の現状を、元大型自動車ドライバーの視点から述べてみたい。
現在、道路を走るクルマには、大きく分けてマニュアル車(MT車)と、オートマチック車(AT車)がある。AT車は周知の通り、アクセルを踏めば進みブレーキを踏めば止まる、操作が比較的容易なクルマだ。
一方のMT車は、AT車ではほとんど使わない左足と左手を使い、発進や変速、停車時にクラッチ操作やシフトチェンジが必要となる。
ここ数年急増しているアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故は、そのほとんどがAT車で起きている。
AT車は、「D」レンジに入れたままブレーキを足から離すとクルマが前進する「クリープ現象」が発生する。「踏み間違い事故」の多くが、意図せず起きたこのクリープ現象に焦り、ブレーキではなくアクセルを踏んでしまうことで起きる。
これらは、本来クルマが止まっていなければならない状況下で起きるため、交差点前での踏み間違いは、「信号無視」、さらには「大事故」を意味することになる。恐らく今回の三ノ宮事故もこのケースだろう。
これ以外にも踏み間違いが起こりやすいのが、「車庫入れ時」だ。
クルマを駐車場や車庫などに入れる時は、レンジを「D」から「R」へと頻繁に入れ替える必要があるのに加え、体をよじらせて後方を確認しながらブレーキとアクセルを頻繁に踏み変えるため、足の位置が不安定になりやすく、踏み間違い事故の発生率が高くなるのだ。
実のところ、踏み間違い事故は高齢者だけでなく、20代以下のドライバーにも多い事故ではあるのだが、加齢で関節が硬くなった高齢者にとっては、若者よりもフィジカル面で、踏み間違いの危険性が増すのである。
その点MT車は、簡単に言えば、アクセルを踏むだけでは構造上発進できず、クラッチやアクセルペダルの踏む程度を間違えるとエンストか空吹かしを起こすため、踏み間違いによる急発進は起こり得ないのだ。
筆者は今回、三ノ宮事故が「踏み間違い」によるものだとする報道に、当初大きな違和感を覚えた。
乗用車のほとんどがAT車である一方、トラックやバスは今のところMT車が大多数で、踏み間違い事故は、これまでほとんど発生してこなかったからだ。
が、今回事故を起こしたバスがAT車だったと知った時、「なるほどそうか」と納得すると同時に、大型自動車を扱うバス・物流業界が直面している深刻な社会的背景を垣間見た。
ATの大型自動車は、普通自動車のそれとは乗り心地が大きく違う。
ATのトラックの変速には、アクセルの踏み込みからかなりのタイムラグがあり、自分の思った通りのスピードを出しにくいのだ。満載時に坂道を上る際などは、アクセルを全開にしても全くスピードが出ないこともある。
今回、ATの大型トラックやバスに乗ったことがあるドライバーにアンケートを取ったところ、そのほとんどがMT車のほうが好きだと回答。筆者も現役時代、ATのトラックに乗ったことがあるが、やはりMT車のほうが断然運転しやすかった。
連休前、立て続けに起きた交通死亡事故。中でも池袋での高齢者ドライバーによる死傷事故(以下「池袋事故」)は、世間に「アクセルとブレーキの踏み間違い」の危険性を知らしめ、日本の高齢化がもたらす「社会問題」として、強く認識させるきっかけとなった。
踏み間違いによる事故は、ほとんどがAT車で起きている
大型車にも広がるAT車
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