日本労働弁護団が批准を要求した「ILOハラスメント禁止条約」って? 遅れる日本のハラスメント対策
国際レベルでは前進の見られそうな職場でのハラスメント対策だが、国内での対策は一歩も二歩も遅れているようだ。
国際労働機関は2019年6月10日~21日に第108回総会を開催し、「仕事の世界における暴力とハラスメント」に関する条約(ILO条約)を採択する予定だ。一方、国内では4月25日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「ハラスメント対策関連法案」)が衆議院本会議で可決された。
日本労働弁護団は4月25日、「ILOハラスメント禁止条約を批准しよう」を連合会館で開催。ハラスメント対策関連法案では不十分であるとし、ILO条約の批准を求めた。
日本労働弁護団・事務局次長の山岡遥平弁護士によると、ILO条約は、ハラスメントの定義や被害者・加害者の範囲が幅広く、評価できるという。同条約は第1条で、ハラスメントを次のように定めている。
「仕事の世界における『暴力とハラスメント』とは、一回性のものであれ繰り返されるものであれ、身体的、精神的、性的または経済的危害を目的とするか引き起こす、またはそれを引き起こす可能性のある、許容しがたい広範な行為と慣行、またはその脅威をいい、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む」(訳文は全て連合の仮訳による)
ここでは心身への危害や性的な危害、昇進させないといった経済的な危害が含まれているだけでなく、慣行に基づくものもハラスメントになりうるとしている。また、働く人の範囲も非常に広い。第2条では、雇われて働く人だけでなく、雇用によらない働き方や就活生も対象に含むとしているのだ。
「この条約は、都市か地方にかかわらず、フォーマル経済およびインフォーマル経済の双方におけるあらゆるセクターの労働者、国内法および慣行で定義された被雇用者、契約上の地位にかかわらず労働する者、実習生および修習生を含む訓練中の者、雇用が終了した労働者、ボランティア、求職者および就職志望者を含むその他の者について適用する」
またハラスメントの加害者に「国内法および慣行に即したクライアント、顧客、サービス事業者、利用者、患者、一般の人々を含む第三者」(第4条(b))が含まれていることも特徴だ。
日本でも顧客が店員に過剰な要求をしたり、暴言を吐いたりする“カスタマーハラスメント”が問題になっている。こうした問題に対処するためには、国内でも顧客や取引先からのハラスメントを対象に含む法律が必要になる。しかしハラスメント対策関連法案では、こうした第三者からのハラスメントが対象に入っていない。
国内で審議中のハラスメント対策関連法案では、事業主にパワーハラスメントが起きないよう対策を講じることを求めている。
「事業主は、(中略)その雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(※1)
日本労働弁護団の新村響子弁護士は、この点は評価できるとしながらも、「ハラスメントが起きても、予防していればいいということになってしまう」と指摘する。
「ある職場では、女性が日ごろから『胸が大きい』などと言われるといったことが起きています。それでもその企業が相談窓口を設置していた、啓発のためのポスターを貼っていたとすると『予防はしていました』と言い逃れができてしまいます」
こうした事態を防ぐためにも、ハラスメントそのものを禁止する規定が必要だという。また他にも、LGBTへのハラスメントや就活生へのハラスメントが対象に含まれていないことが問題だ。
ILO条約では顧客によるハラスメントも規制の対象に
予防していればハラスメントが起きても言い逃れできてしまう
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