2016年10月に公開されたマストドンだが、日本では2017年の4月にブームが起きた。発端は、4月11日に
nullkal 氏が、日本初のマストドンサーバー「
mstdn.jp」を開設したことだ。ネット上で話題が沸騰して、4月14日にはピクシブが「
Pawoo」を作った。また、4月19日にはドワンゴが「friends.nico」を始めた。マストドンは、瞬く間にブームになった。
筆者も「mstdn.jp」「Pawoo」「friends.nico」それぞれにアカウントを作り、住人となった。タイムラインは非常に活発で、次から次に発言が流れてきた。
個人的な印象も書いておこう。マストドンは、Twitterのようにフォロワーを確保して情報を流すというよりは、今ログインしている人と、流れてくる情報を元に雑談するという感じだ。
マストドンの画面では、複数のカラムに情報が流れてくる。フォローしている人のカラム以外に、サーバー全体のカラム、連合のカラムがあり、フォローしている人の情報は、そうしたものの、ひとつでしかない。
マストドンのUIは、プログラムの改造で自由に変わるために、必ずしも全てのマストドンが、こうしたカラムを備えているわけではない。しかし「中央集権ではない」という思想が、フォロー、フォロワー構造にもおよんでいると感じた。
2017年の日本のブームは、非常に大きなものだった。
4月16日には、「mstdn.jp」のユーザー数が世界全体のマストドンの中で1位になった。
4月17日には、「Pawoo」が「mstdn.jp」を抜き去り世界1位になる。
2019年の現在では、
「Pawoo」のユーザー数は53万人を突破している。累計トゥート数(Twitterのツイートに相当する)は2800万を越えている。「mstdn.jp」のユーザー数は19万を突破。累計トゥート数は4800万以上だ(
日本のマストドンインスタンスの一覧)。
マストドンは世界中にサーバーがあり、自由に参加できる(
ソーシャルネットワーキングを、あなたの手の中に – Mastodonプロジェクト)。私も、時折ログインしては、タイムラインを眺めたりしている。
公開から約2年半。マストドンは消えることなく残っている。ただ、収益化という面では難しいのかもしれない。冒頭に挙げた「friends.nico」は4月28日に閉鎖された。「mstdn.jp」は、2018年10月1日に nullkal 氏から
合同会社きぼうソフトに譲渡された。
マストドンの運営には、サーバーの維持費が掛かる。また、メンテナンスの人的コストも必要だ。ただ置いておけばよいというわけではない。小さなサーバーならともかく、ユーザー数が万を超えると、事業として成り立たせないと維持することは難しいのだろう。
マストドンが誕生したのは2年半ほど前だ。その思想には、中央集権的なインターネット世界への疑問がある。それから月日が経ち、インターネットの世界はどうなっているのか。
Facebookの月間アクティブユーザー数は23億人を超えている。Twitterは3億人を上回る。インスタグラムは10億人を突破している。マストドンとは、桁が3つか4つほど異なっている。
コミュニケーションを基本としたサービスでは、ユーザー数が、そのままそのサービスの魅力となる。人がいないSNSには、人が寄りつかない。そして、多くのユーザーを集めた場合、維持やメンテナンスにカネが必要になる。
より巨大なサービスを運営するには資本がいる。単にサービスを提供するだけでなく、広告を投下したり、マネタイズのための仕組みを考案したりしなければならない。そのため、マストドンのような仕組みが、既存の巨大サービスを脅かすのは難しいと感じる。
とはいえ、画一化されない世界があることは、ありがたいことだ。日々、インターネットを利用していて感じるのは、少数の企業の価値観に、発言やコンテンツの内容を制限されているという不自由さだ。
FacebookやTwitterといったSNSを利用したり、スマートフォン向けのマーケットでアプリを出したり、Amazonで本を出したりするには、米国企業の価値観に従う必要がある。グローバルな世界でありながら、アメリカというローカルな世界が基準になっている。
中央集権的なインターネット世界は、多様性を許さない世界に繋がる。マストドン的な世界や仕組みが、多く登場して普及すればよいと感じている。
◆シリーズ連載:ゲーム開発者が見たギークニュース
<文/柳井政和 photo by
Ken Yamaguchi via flickr(CC BY-SA 2.0)>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『
裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『
レトロゲームファクトリー』。