4・8経団連会長会見に垣間見える経団連の「恫喝」

検証「中西経団連会長会見」2

 中西氏記者会見の後半ですが、これは非常に解説しにくいです。理由は、中身がないからです。従って、「後半部分には中身がありません。」という解説で終わらせることも可能ですが、それでは余りにも表面的です。  まず、中西氏の言う「電力についての技術的変化」ですが、これは、日本以外の世界では過去25年間に劇的な変化を遂げています。それは、電力自由化、発送電分離、新・化石資源革命、再生可能エネ革命などによるもので、北米全域と欧州全域(拡大EU)を中心に進行してきています。結果、電力は価格が低減し、同時にとくに合衆国においては環境適応も進んでいます。  ここに前回の図を再掲します。Forbsというオジサン向け雑誌に掲載された記事であると言うことを重視して、あえてこの図を使っています。なお、引用元はForbs電子版です。
合衆国における再生可能エネルギー価格の急落

合衆国における再生可能エネルギー価格の急落(発電端単価)
Forbs,2016/06/22
送電コストは $40/MWh
原子力発電(優良プラント)$36/MWh
原子力発電(下位25%)$62/MWh
1$=100円換算で縦軸を5,10,15,20,25円/kWhと読み替えれば良い
発電端単価(発電所荷出価格)なので、4円/kWhを加算すれば送電端単価となる
本稿ではこれ以降、送電価格を4円/kWh固定として試算している

 図の緑色の帯が電力卸価格の帯域です。自由市場ですのでこれだけ幅がありますが、日本で言えば送電端(消費側=ブレーカー)での価格で2015年に6.5円/kWhから11円/kWhの幅があります。2003年では7.5円/kWhから15円/kWhであったわけですので、13年間で15%〜30%ほど電力卸価格は下がり、現在も低下傾向です。実際、米欧では、電力価格は長期的に一部の間抜けな国を除き下がるものというのが今世紀に入ってからの傾向といえます。  ここで注視すべきは、大規模風力の価格のたいへんな安さと低位安定性、大規模太陽光の急速な価格低下です。  2006年には27円/kWh(送電端)であった太陽光は、その後価格が急低下し、2006年には7円/kWh(送電端)となっています。10年間で1/4に下がっています。但し、合衆国の場合、日照条件がきわめて良く、都市に近接して広大な原野があることは日本と著しく異なる条件です。従って、日本ではここまで素晴らしい結果を出すことは困難でしょう。  一方で原子力は8〜13円/MWh(送電端)に留まっており、低下し続ける卸価格の価格帯から外れたものは、当然脱落してゆきます。これに加え、2008年まで電力価格を押し上げていたコモディティバブル(資源・資材バブル)によって、電力卸価格が上昇していたときに多数計画・発注された原子力発電所は、その後のバブル崩壊、新・化石資源革命、再生可能エネ革命による電力卸価格の急落とその後の価格低下傾向によって事業性を失い次々とキャンセルされてしまいました。更に福島核災害によって原子力発電所の建設単価が2〜3倍に激増したことから、完全に芽を絶たれてしまいました。これが「原子力ルネッサンス崩壊」の実像です。
日本における原子直発電所建設単価の推移

日本における原子力発電所建設単価の推移
原子力発電所建設単価の変動要因に関する定量分析 松尾 雄司,根井 寿規IEEJ 2018/2より
2010年までは日本における原子力発電所の建設単価は、2800億円/GWeと優秀であった。福島核災害後の適合性審査合格のための改修費は、3000億円/基を超える見込みである。
福島核災害後の原子力発電所建設単価は、3G炉でこの2倍、3G+炉で3倍となるが、炉寿命は60年となる。結果、仮に現在日本で3G+炉を建設した場合、建設単価は900〜1000千円/kWeになると見込まれる。これは米欧の実績値と一致する。
現在天然ガス複合火力(LNG GTCC)発電所の建設単価は80千円/kWe前後であり、なおも低価格化、高性能化の傾向である

イカサマデータで行われた経営判断

 世界の電力網は、そういった一大変革に適応し、創り出すために変化し続けてきましたが、日本では全くそのような変革を起こしませんでした。それが、福島核災害前までとその後も続く実情といえます。その一つの道具が、発電単価などの長年にわたるごまかしによるもので、いわば偽統計、偽数値によって政策、経営判断を行ってきたのですから、国も経団連も電力も、自分たちが何をやっているのかすら分からなくなっているといえます。  船で言えば、羅針盤は細工をしてアッパラパーな方位を示し、海図は偽もの、GPSは当然偽物で天測できる人間は粛清して誰もいないという状態です。まさにブレジネフ末期からグラスノスチ前のソ連邦と瓜二つです。  むしろ、著しくゆがんだ制度設計と運用によって2010年に風力発電国策バブル崩壊を起こし、その過程において風力発電をNIMBY(Not In My Backyard:ご近所お断り=迷惑施設)化させてしまい、回らない風車などの風発詐欺を量産した結果、産業として信用失墜させしてしまいました。そしてそれを更に拡大して同じ事を繰り返しているのが現在の再生可能エネ国策バブルといえます。とくに2012年7月の現制度については成立過程からして狂気の沙汰であって、なぜこのような振り切れて狂った制度をつくり、それを漫然と運用してきたのかには、強い興味があります。  このような状態では、経営資源の配分が正常でできるわけがなく、結果として、送電インフラへの投資が行き詰まりつつある。まさに自作自演の危機を演出しているわけです。  結局のところ、経団連はエネ庁・国と結託して日本という虚構の箱庭の中で過去25年間の世界での一大変革から逃げてきたわけですが、その結果として製造業として火力を除き海外市場から脱落し、もはや二進も三進も行かなくなってきたというのが実情といえます。  ここに三枚の経団連ポンチ絵を引用しましたが、どれもこれも流行のキーワードを適当にちりばめて、危機を煽る典型的な恫喝型ヒノマルゲンパツPAであって、全くの常套手段に過ぎません。  偽造した統計、捏造した基礎数値、はじめから一つに決めている選択肢、形式でしかない議論により、常敗無勝の大失敗であった、エネ庁、経産、経団連が今後予定している市民に対するペテンと誤道、そして目指す結論が現れているに過ぎません。
中西氏記者会見 概要資料より

危機を煽るが、中身は適当なキーワードをちりばめただけで中身はない。これは当然で、統計と基礎数値を長年ごまかしてきた結果の危機であって、かれら自身が空間失調(バーティゴ)に陥っている(中西氏記者会見 概要資料より)

中西記者会見概要資料より2

考え方はともかく、この「費用イメージ」が偽統計と偽基礎数値によってイメージされており、完全な虚構と化している。これでは「適切な投資」や「評価」などできるわけがない。しかも炭酸ガス排出に関する「非化石価値」はイメージそのものが根本的に誤っている。本図は、もはや能力がないことの証左となっている。少なくとも出典と基礎数値を明示せねばならない(中西氏記者会見 概要資料より)

中西記者会見概要資料より3

これは、流行のPDCAサイクル*を持ち出したものである。
あらゆる選択肢を想定せずに原子力へ限定し、議論のもとになるあらゆるデータは捏造、議論は全くの形骸であって、シナリオは単線というのが実態。国策のベストミックス論も結果はリスクマックスで(Risk MAX)あった(中西氏記者会見 概要資料より)

<*:戦後、それまで品質管理という基礎概念がなかった日本に導入された、製造業における品質管理の一手法であるデミングサイクルを社会全体に拡大・一般化したもので、「→Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)→」の 4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善するという概念である。日本のみで大流行しており、小学校までがPDCAサイクルによる学校運営なるものをうたっている。実態は、単なる回る儀典であって、完全に形骸化し、有害無益な儀式、要するに時間とお金と労力の無駄という社会的害悪と化している場合が極めて多い。  主に大学・役所・教育機関で大流行中であるヒノマルPDCAの実態は、「→Pray(祈祷)→Decay(劣化)→Cancel(中止)→Abandon((責任)放棄)→」といえる。度しがたいのは、このような無意味な儀典を役所ぐるみで布教する大学までが存在することである>
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典型的恫喝型PAの会見。言いたいことは3つだけ
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