「脱ビジネスウェア」に舵を切るメンズ百貨店――若者集客に成功した「超意外」な店舗とは!?

リニューアルを果たした2つのメンズ百貨店

 この春、リニューアルを迎えた「新宿伊勢丹メンズ館」(新宿区、2019年3月16日リニューアルオープン)と「阪急メンズ東京」(千代田区、2019年3月15日リニューアルオープン)。  東京都心における同業態のライバル店としてしのぎを削ってきた両店であるが、今回のリニューアルでは、伊勢丹がオーダー商品を強化しコンシェルジュサービスを導入するなど百貨店の王道ともいうべき「高感度なラグジュアリー」路線を崩さなかったのに対し、阪急は新たにヴィンテージや中古レコードの売場を導入するなど、百貨店の常識を覆した「個性が強いマニアック」路線へと転換。「正反対」ともいうべき改装内容となったのは前回記事で述べた通りだ。  しかし、両店のリニューアルを詳しく見ていくと、いくつかの大きな「共通点」も見えてくる。
伊勢丹メンズ館

リニューアルを迎えて賑わう伊勢丹メンズ館。さらに高級感あふれる売場となり、店内サービスも充実

両店ともに縮小された「ビジネスウェア」

 両店の改装における最も大きな「共通点」は「紳士服売り場の花形」である「ビジネスウェア」売場の縮小だ。  その理由の1つとして挙げられるのが「ロードサイド型紳士服チェーン」の台頭であることは言うまでもない。  かつて、紳士服は長らく百貨店や総合スーパー、個人が経営する「街の紳士服店」が主要販売店であり、バブル期前後までは「就職の際にデパートで紳士服を買う」という経験をした人も多かったであろう。この頃は、百貨店各社が「自社開発スーツブランド」(PB商品)の開発にしのぎを削っていたほどであった。  しかし、1980年代後半から1990年代初頭にかけて「洋服の青山」、「AOKI」、「はるやま」などといったロードサイド型紳士服チェーンが台頭。高級ブランドスーツのデザインを意識した低価格かつ機能性が高いスーツの登場は国内のスーツ市場を一変させ、「街の紳士服店」は次々と姿を消し、百貨店における紳士服市場も縮小傾向となった。  さらに、2000年代に入ると、こうしたロードサイド型紳士服チェーンは中心市街地エリアへの出店攻勢を強め、東京都心でも多くみかけられるようになったほか、ユニクロなどファストファッションチェーンによるビジネスウェア参入も相次いだ。近年、これらの紳士服チェーンは青山の「THE SUITS COMPANY」、コナカグループの「SUIT SELECT」に代表されるツープライススーツ専門店や、青山の高級業態「UNIVERSAL LANGUAGE」などのように「都心型業態」「高級業態」の開発も進めており、近年は紳士服チェーンが駅ビルやファッションビル、なかには百貨店自体へと出店することも当たり前となった。
大手紳士服チェーン

2000年ごろから都心でも大手紳士服チェーンを良く見かけるようになった(池袋駅前)。近年は百貨店と直接競合する「高級業態」を展開する紳士服チェーンもある

 伊勢丹メンズ館が出店する新宿駅周辺、阪急メンズ東京が出店する有楽町駅・銀座駅周辺においても、こうした大手紳士服・ファストファッション店の旗艦店が数多く出店していることからも分かる通り、今や一般男性にとって紳士服店やファストファッション店のスーツは「無難な選択」「可もなく不可もない選択」として幅広い層に定着している。それに加えて近年は働き方の多様化も進んでおり、必ずしもスーツを着用しなくていい職場も増えてきている。  こうした状況下においても、多くの百貨店の紳士服売り場は「ビジネスウェア中心」の売場づくりが続いており、とくに伊勢丹は2015年12月に東京駅前・丸の内にビジネスマンをターゲットにビジネスウェアを中心とした品揃えの「イセタンサローネメンズ」を出店させるなど、近年も都心で働くビジネスマンへのファッション提案を怠って来なかった。  それだけに「東京都心のメンズ百貨店がビジネスウェアを縮小した」ことは、百貨店業界にとって「大きな路線転換」であると捉えられる。
イセタンサローネメンズ

丸の内にある「イセタンサローネメンズ」。伊勢丹にとってもう1つの「メンズ百貨店」だが、こちらはその規模や立地もあってあくまでも「ビジネスウェア中心」だ

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脱ビジネスウェアとストリート系路線の理由は?
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