児童相談所の一時保護は本当に「救済」なのか? 定員オーバーや職員による虐待も

施設は「ドラマで見た刑務所のような場所」

 一時保護の施設で暮らしているのは、虐待を受けた子どもだけではない。  棄児や迷子、家出した子どもなど適当な保護者・宿所がないために緊急に保護された子、虐待・放任などで家庭から一時的に引き離す必要があった子、自己または他人の生命・身体・財産に危害を及ぼした子(もしくはそのおそれがある子)、援助指針を定めるために行動観察や生活指導などを行う必要がある子などだ。  2015年度の保護件数2万3276件のうち、養護1万7554件(うち虐待1万1607件)、障害90件、非行3536件だった。施設内では、親に虐待された子、非行少年、障害を持つ子らが混在している。  筆者は、親に虐待されて施設に入ったことのある若者たちから「非行少年に万引きを強要された」とか、「ドラマで見た刑務所のような場所」という声を頻繁に聞いてきた。  もちろん、すべての施設がそのような非人道的な場所ではない。だが、定員オーバーが続けば、子ども1人あたりのスペースは狭くなり、ストレスや緊張感でいじめや暴行に及ぶことが想定される。そのため、職員がより強い管理を求めるようになる傾向は依然としてある。  首都大学東京教授(憲法学)の木村草太さんは、ビジネス・インサイダー・ジャパンで「施設の環境の悪さも児相が保護を躊躇する原因」と指摘し、児童虐待や少年事件を数多く担当してきた山下敏雅弁護士も「自分の持ち物を使うのにも許可が必要だったり厳しく管理されているところも多く、2度と行きたくないという子もいます」と証言。  2007年にNPO法人Living in Peaceを創設した起業家の慎泰俊さんは、施設に住み込んでルポを書き、一時保護所について「傷ついた心をケアするような場所でない」と朝日新聞にコメントしている。 「一部の一時保護所における刑務所のような雰囲気です。外壁は高く、窓は閉じたままで外へ出ようとすればセンサーが鳴る。食堂には1列に並んで入り、食事中は私語禁止。学校にも通えず友達へ連絡を取ることもできません」(朝日新聞2018年4月24日の記事より)

親に虐待を受けて保護されたのに……施設内では職員による虐待も

 こうした管理を少人数で行う職員の側にも、当然ストレスはたまる。  保護された子どもに対する職員による「施設内虐待」が、既に問題視されているのだ。社会的擁護の現場で、子どもに対する体罰や身体的暴力はもとより、言葉による暴力や人格的辱め、無視・脅迫の心理的虐待、セクシャルハラスメントなど、保護された子どもに対する不適切なかかわりが一部にあることは、厚労省も認めている。  10年前の2009年4月に施行された児童福祉法改正によって、施設職員等による被措置児童等虐待(いわゆる施設内虐待)について、都道府県市等が児童本人からの届出や周囲の人からの通告を受けて、調査等の対応を行う制度が法定化された。  これは、児童相談所の所長、一時保護所の職員、児童養護施設の職員、児童自立支援施設の職員、児童心理治療施設の職員、障害児入所施設の職員、乳児院の職員、里親などが、保護された子どもに対して加害者になっている現実をふまえての改正だったのだ。  もっとも、保護された子どもは、学校や家庭で虐待とは何かを学ぶ機会がない。「自分が職員にされていることは虐待だ」と認知できるだろうか?認知できた時、自分を虐待した職員以外の誰に容易に相談できるだろうか?被害を子どもが言い出すのは、大人が考えるよりはるかに難しいことではないか?  2018年1月、愛知県西三河地方の児童相談所の一時保護所で、同県豊橋市の少年(当時16歳)が自殺した。少年は家出中に自転車を盗んだとして補導され、職員に「少年院に行く場合もある」と言われ、自室のシーツで首を吊った。有識者や医師、弁護士による検証委員会が県に提出した報告書によると、「不適切な対応を行ったことは否めない」という。
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児童相談所を増やしても問題解決にならない
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