―― その解決策とは、一体どのようなものなのですか。
岡部:まず発展途上国の若者は、日本に制度があろうがなかろうが、その実態が何だろうが、海外に出稼ぎに行かざるをえません。だから、出稼ぎ労働者の受け皿である技能実習制度と留学制度そのものを一概に否定するつもりはありません。
しかし、その実態は余りに酷すぎる。だからといって、今さら法律や制度の改善を要求する気もありません。それでは時間がかかり過ぎるし、
何よりもう行政や企業には期待していません。
要は法律や制度を改善しなくても、
日本に来る外国の子たちが酷い目に遭わなければいいのです。そのためには、彼らが自分で自分の身を守って、他人から助けてもらえる仕組みを作ればいい。
実習生や留学生が自分で自分の身を守ることができないのは、情報と知識がないからです。ベトナムの場合、政府公認の送り出し機関は291社ありますが、それ以外にも山ほど同じような会社があります。その中には悪徳ブローカーも紛れ込んでいますが、来日を希望する子たちはそれを見分ける情報を持っていない。その結果、ブローカーに騙されて多額の借金を背負うケースが後を絶たないのです。
来日後も状況は変わりません。実習生が受け入れ企業で酷い目に遭って失踪するケースは増える一方ですが、事前に実習先がブラック起業かどうかを確かめる方法もありません。たとえば、最終的には労基署で解決したのですが、
ある実習生は日本に来て最初の給料から住民税が2万円引かれていました。外国人の住民税は2年目以降から発生するので、これは不当な搾取です。しかし、当の本人にはそういう知識がないので、不当なのかどうかすら中々判断がつかない状況です。
それ以外にも知らない情報が多い。ベトナムの送り出し機関は日本の受け入れ機関と提携しているため、それぞれ実習先の職種や地域にバラつきがあります。たとえば、東京都の最低賃金は985円ですが、鹿児島県は761円です。仮に週5日8時間労働だとすると、東京と鹿児島で同じ条件で働いても年間43万円、3年で129万円の差額が生まれます。これはベトナムでは新築が建てられる金額です。ところが、実習生はこういうことを知らずに来ますから、田舎の実習先から失踪して東京で働こうとする子も出てきます。
中には、鳶職が何か分からないまま来日して、高所恐怖症のため3日で根を上げる子もいました。それくらい情報がないのです。
しかし、この状況は
実習生以外には好都合なのです。
送り出し機関、監理団体、受け入れ企業はそれぞれ実習生の無知につけ込んで利益を上げているからです。
問題の根源は、この「情報格差」です。それを解消するために必要なものは、総合情報プラットフォームです。だから、
インターネット上にベトナム人実習生・留学生向けの総合情報プラットフォームを開設して情報格差を解消すること、これが私の解決策です。
私はこれを「スマイル・プロジェクト」と名付けました。幸い、ベトナム政府をはじめ多くの方々の賛同を集めています。年内には実現に漕ぎつけたいと思っています。