コインハイブ事件で検察側が控訴。一連の騒動、そして「Coinhive」とは何だったのか?

ノルマ達成に追われる警察

 今回、記事を書くに当たって、2017年9月から2019年3月までの報道を振り返ってみた。次ページ以降では、コインハイブ事件について、ある程度大手のニュースサイトを中心に、2017年9月から2019年3月まで、どのような文脈で「Coinhive」と「コインハイブ事件」が語られてきたかを時系列でまとめているが、これらの報道を追って分かることは、コインハイブ事件以前から「Coinhive の犯罪者による利用」が問題視されていたことだ。しかし、実際に警察に検挙された人々は、サイバー犯罪とは無関係な一般人だった。  なぜ、サイバー犯罪者ではなく一般人を警察は狙ったのか。「手軽にアクセスできる人を捕まえてポイント稼ぎをしたかったのではないか」「犯罪集団を追う技術力がないのではないか」という疑問が、どうしても生じてしまう。  事件前に何度も名前が出て、ずっと「Coinhive」を追っていたトレンドマイクロが「それ自体は不正な目的のサービスではない」と指摘していたのが印象的だった。  さて、上に疑問として挙げた「警察のポイント稼ぎ」という印象には根拠がある。  情報公開請求を行ったSUGAI氏のエントリや、ozuma氏のブログによると、警察庁から全国47都道府県警に通達が出ている。  「平成31年2月15日付 警察庁丁情対発第108号、丁情解発第27号」において、「不正指令電磁的記録に関する罪」の「積極的な取締り」を実施するよう指示している。  同内容はITmediaでも記事になっている。上記の文書には「積極的な取締りの推進」「積極的な検挙広報の推進」が謳われており、各都道府県による逮捕は、見せしめの意味合いが強いことが分かる。  警察にとっては、通常運転のポイント稼ぎかもしれないが、それによって人生を壊される国民がいることを忘れないで欲しい。

報道について

 今回報道を追うことで、メディアによる報道の違いも見えた。こうしたIT系の事件では、新興のネットメディアの方が、旧来のメディアよりも、高い頻度でより詳しく内容を取り上げている。  また、情報公開請求など、個人が動いている様子も見えた。そうした活動を目撃することで、報道機関の社会的使命である「権力の監視」についても考えさせられた。  ネット時代になり、様々なものが可視化されるようになった。ある事件の報道についても、比較的容易に後から追える。  人の記憶は捏造されやすいので、事件の流れがどうだったかを改めて振り返ることは大切だ。また、事件がどう報道されてきたか検証することも必要だ。今回の件は、依頼があれば小説やノンフィクションの本を書きたいと思う、ドラマ性のある展開だった。
次のページ 
時系列で見る「コインハイブ事件」報道
1
2
3
4
5
6