「冒険」をテーマに百貨店の常識を覆す「阪急メンズ東京」
もう一方の阪急メンズ東京(HANKYU MEN’S TOKYO)の前身となる「有楽町阪急」は1984年9月に朝日新聞東京本社、日本劇場(日劇)、丸の内ピカデリー跡地を再開発し誕生した複合商業施設「有楽町マリオン」(有楽町センタービス)の核テナントとして開業。
開業当初はマリオンに同時開店した「有楽町西武」(現:有楽町ルミネ)、徒歩圏のプランタン銀座とともに若年層から絶大な支持を獲得し、「マリオン現象」と呼ばれる一大ムーブメントを起こした。2000年には食品売場を廃止してレディスファッション関連の売場を増床。2007年3月期には過去最高となる約145億円の売り上げを記録するなど都心に勤務する若いビジネスウーマンを中心に人気を集めたが、2007年に徒歩圏に「有楽町マルイ」が開業すると売り上げは減少に転じ、その後の百貨店不況のなかで売上は急降下。
さらに、2010年末には阪急とともに有楽町マリオン内に出店していた有楽町西武が閉店。商環境の変化、消費者嗜好の変化もあり、2011年7月をもって一時閉店することとなった。2011年3月期の売り上げは全盛期の約6割にも満たない約84億円にとどまった。
有楽町阪急(阪急メンズ東京)が出店する有楽町マリオン
その後、有楽町阪急は大阪・梅田で成功を収めていた阪急百貨店うめだ本店のメンズ館「阪急メンズ大阪」(2008年2月開業)にならうかたちで、2011年10月に阪急のメンズ百貨店2号店「阪急メンズ東京」へと業態転換した。
開業時のコンセプトは、大阪・東京ともに「世界が舞台の、男たちへ」であり、伊勢丹メンズ館と同様に高感度なメンズファッションを提供する売場となった。なお、同じ2011年10月には西武百貨店跡にJR東日本が運営する「ルミネ」が開業。駅ビルとして人気のルミネが出店したことから、再びマリオンには若者の姿が多くみられるようになった。
阪急メンズ1号店となった「阪急メンズ大阪」。幅広い年齢層の支持を受ける
今回の阪急メンズ東京リニューアルは2011年の業態転換以来初となるもので、2019年1月から3月にかけて地下1階~地上3階の一部フロア及び4~7階の全フロアを閉鎖し、全面改装を実施した。
リニューアルのコンセプトは「クリエイティブコンシャスな男たちの冒険基地」。キービジュアルに往年の大スター・石原裕次郎氏を起用し、靴が誕生したといわれる紀元前3,500年を表現したシューズ専門フロア「3500 BCE」(5階)、映画「2001年宇宙の旅」「西部開拓史」をインスパイアした「HOW THE MAN WAS WON」(地下1階)など、各階毎にテーマ性を持たせた売場づくりを目指したという。営業面積は約11,000㎡で、目標年商は阪急百貨店有楽町店時代を上回る170億円。2018年3月期の同店の売り上げは約143億円であったため、これまでの約1.2倍、阪急百貨店時代の過去最高売り上げをも上回るかなり強気の数字だ。
館内に入ると、伊勢丹メンズ館とは異なる雰囲気に驚かされる。百貨店の顔である1階には主に「コム・デ・ギャルソン」や「オフホワイト」など高級カジュアルウェアが並ぶ。ちなみに、伊勢丹メンズ館の1階はオーダーシャツやメンズジュエリー、化粧品などが中心であった。
1階以外も同様に、全館を通してビジネスウェアの売場は以前より大きく圧縮。そのぶんストリートウェアや尖ったヴィンテージ商品など、カジュアルかつマニアックなアイテムが目立つ。
特に目を惹いたのは、百貨店初となった「TENGA STORE」で、TENGAを含めた高層フロアには若者の姿も目立つ。このほかにも、同じく百貨店初となったリスニングルームを導入したレコード・オーディオ専門店「ギンザレコード」、東京のフードカルチャーを代表するトップシェフが喫茶店メニューを現代解釈し再構築したラインナップを展開する「ネオ喫茶 KING」などが出店。アパレルの隣にホビー、その隣にカフェ…など、様々な商品が同じフロアに展開されている様は阪急メンズ東京ならではで、まさに百貨店の常識を覆す、「冒険基地」ともいうべき売場構成といえる。
もちろん、従来通りのラグジュアリーなビジネスウェアなどのフロアも存在する。「”イイ男”にはインテリジェンスとエロスが必要」だという