今回の件は言論の自由と情報公開のバランスの問題である以上に、
ロシアのハイブリッド戦略へのアメリカの応酬と言える。ジャーナリストやメディアの活動は、当事者がどう考えているかに関わりなく、その支援者の武器として利用されている可能性が常にある。
ハイブリッド戦略とは軍事、経済、文化などあらゆるものを兵器化して行う新しい戦争であり、1999年の中国の『超限戦』や2014年にロシアの軍事ドクトリンなどで提示された。前回のアメリカ大統領選へのロシアの干渉やウィキリークスを使った一連の暴露もその一環と言える。
ハイブリッド戦略においては旧来型の軍事行動よりも、それ以外の非戦闘行為の方が重要とされている。ネット世論操作はその中でも特に有効だ。しかも相手が自由主義国なら「言論の自由」を盾にできる、ウィキリークスがそうだったように。(参照:
『人は簡単にファシズムに転ぶ。拡散装置による世論誘導の果てにある「illiberalism(似非民主主義)」社会』HBOL)。
だからアサンジは逮捕されてもよいと言っているのではない。ひとつの事件を解釈する際に、総合的な視点で考えることが重要であることを言いたいだけである。
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」
<取材・文/一田和樹 photo by
New Media Days via flickr(CC BY-SA 2.0)>
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『
フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている