最後に証言台に立ったのが原告の橋下氏だった。橋下氏は、訴訟代理人である松隈貴史弁護士(橋下綜合法律事務所)の主尋問で、橋下氏の陳述書(2018年11月29日付)に沿って、「前例のない大阪府知事の台湾訪問は、中国との外交問題に発展する恐れがあるので、台湾の行政関係者との面談をしないなどの台湾訪問に関する方針を、幹部が出席する戦略本部会議で議論を重ねて決定していた」と主張した。
これに対し、岩上氏側の代理人弁護士はIWJによる調査をもとに、大阪府の意思決定機は戦略本部会議と部長会議であり、それ以外に府としての方針を決定する正式な意思決定機関はない、ということを明らかにしたうえで、「訪台前に訪台方針を議論して決めたという事実は一切ない」ということを明らかにする尋問を行った。
橋下氏は岩上氏側の追及に対し、「どの会議で訪台方針を決めたかは覚えていない。2つの会議の他に、担当部局と府幹部の会議もある」などと答えた。これは橋下氏が陳述書で書いた「府知事の独断によって意思決定がなされることを防ぐための措置として、上述の『大阪府戦略本部会議』を設置した」「大阪府戦略本部会議において入念に時間をかけて議論を重ね、大阪府知事の台湾訪問の方針を作った」という記述と明らかに矛盾している。
「日本維新の会」創設者で現在も安倍晋三首相と定期的に会食するなど影響力のある橋下氏の法廷での証言の真偽が問われている。傍聴席には記者席が13席あり、橋下氏の証人尋問では、大手メディアの記者9人が取材していたが、橋下氏の食い違いを報じた報道機関はひとつもない。
コメントなしのリツイート(後に削除)に対し、100万円を請求
法廷に向かう岩上氏の支援者
橋下氏は2017年12月15日、岩上氏が同年10月末、「橋下徹が大阪府の職員を自殺に追い込んだ、という虚偽情報」の元ツイートをリツイートしたことによって社会的信用を低下させられたとして、100万円を請求する訴訟を起こした。
名誉毀損の提訴でありながら、橋下氏の訴状には、名誉や社会的信用の回復を求める訂正文の公表の要求などが一切ない。100万円という金銭の要求だけだった。橋下氏が真に自身の社会的信用の回復を目指してきたか、きわめて疑わしいものがある。
岩上氏側は「橋下氏から事前の通告は一切なく、抗議や謝罪の要求もなく、2017年12月末に訴状が届くといういきなりの提訴だった。岩上氏や市民の橋下氏に対する批判を封じることが目的の典型的なスラップ(恫喝)訴訟であり、訴権の濫用に当たる」として、請求の却下を求めた。
元のツイートは2017年10月25日、「橋下氏、丸山代表の党代表「茶化し」2度目…松井代表『20歳も年下に我慢している』橋下徹が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか! 恥を知れ!」という内容だった。
岩上氏は翌日、コメントを付けずにこのツイートをリツイートした。岩上氏は数日後、このリツイートを削除した。
ツイート元の投稿者が取り上げた「自殺」とは、大阪府商工労働部経済交流促進課のN(仮名、法廷では双方が実名で質疑応答)参事(課長級、国際ビジネスグループ長)の件だ。大阪府では「係」制を廃止し、「グループ」制にしている。法廷では双方がN氏の名字を実名にして質疑応答していた。
大阪府では、橋下府政下の2010年に7人が自殺している。それまでの府庁では自殺者は年間1人前後だった。元のツイートは、N参事の自殺に橋下氏のパワハラが絡んでいると述べていた。
知事時代に橋下氏が年上の府幹部たちに生意気な口をきき、そのあげくに府職員の自殺事件が起きてしまったことについて、「恥を知れ!」などと、橋下氏に直接呼びかけて、パワハラを諌めるツイートだった。
そもそもこのツイートは、橋下氏が日本維新の会の丸山穂高議員に対して、ツイッター上で「公開パワハラ」を行っているときに、橋下氏を諌めるために、橋下氏に向けて放ったツイートだった。
2017年10月の衆院選後、丸山穂高衆院議員(日本維新の会)がツイッターに「議席減となった衆院選総括と代表選なしに前に進めない」などと松井一郎代表を批判する投稿を行った。
これに対し、自分が創設した日本維新の会の役職を離れ、法律顧問であった橋下徹氏は「口のきき方も知らない若造が勘違いしてきた。言葉遣いから学べ」「代表選を求めるにも言い方があるやろ。ボケ!」などと罵倒するツイートを繰り返した。まさしく政界における「公開パワハラ」だった。