多くの「ゲノム編集食品」が安全審査なしで市場に出回る
突然変異で筋肉増強を抑える遺伝子「ミオスタチン」の働きが阻害された牛ベルジャン・ブルー。ゲノム編集技術では、ミオスタチンの働きを止めた魚や家畜の研究が進められている。 photo via Wilimedia Commons(Public Domain)
ゲノム編集技術応用食品について検討していた厚生労働省は3月27日、「外来遺伝子が残存している場合は規制の対象となるが、『遺伝子を切断しただけ』のものや『導入された遺伝子がわずか(1~数塩基の変異が残っている程度)』の場合は、遺伝子組み換えに該当しない」とする報告書をまとめた。
この結果、農水省が開発を進めている貯蔵能力を高めたイネや、京都大学等が開発中の筋肉量を増強したマダイなど、多くのゲノム編集食品は規制の対象外となり、安全審査なしで市場に出回ることになる。規制の対象外なので表示もされない。
市民団体からは「ゲノム編集では、狙った以外の遺伝子が切断される『オフターゲット』やアレルギーの問題などが指摘されており、安全性は確立されていない」「表示されなければ消費者の選択権も奪われる」として、規制と表示を求める声があがっている。
遺伝子の働きを阻害、新たな形質を引き出した牛、マダイ、イネ
近畿大学が開発中の「ダブルマッスルマダイ」(左)。ミオスタチンの働きを阻害することで筋肉量が通常の2倍になったという
ベルギーに、驚くほど筋肉隆々の「ベルジャン・ブルー」という牛がいる。この牛は、突然変異で筋肉の増強を抑える遺伝子「ミオスタチン」の働きが阻害されたために通常よりも筋肉が発達した牛になった。
京都大学や近畿大学では、ゲノム編集技術を使ってミオスタチン遺伝子を切断することで、ベルジャン・ブルーのように筋肉部分を増強したマダイの開発を進めている。
農水省が開発を進めているのは収量増加をめざした「シンク能改変イネ」。シンク能とは貯蔵能力を意味し,花芽の分裂を促進する植物ホルモンを分解する酵素の遺伝子を止めることで植物ホルモンを増加させ、籾数を増加させようというもの。現在は栽培実験中だという。
これまでの遺伝子組み換え技術は「別の生物等の遺伝子を挿入する技術」だったが、2012年に「クリスパーキャス9」が開発されてから、ゲノム編集では正確に狙った遺伝子を切断、その働きを止めることにより新たな形質を引き出すことが容易となった。もちろん切断箇所に別の遺伝子を挿入することも可能だ。