経団連会長の「原発提言」は、国際市場から脱落した日本原子力産業による国内への「PA本格化宣言」か

会見をする経団連の中西会長

会見をする経団連の中西会長 経団連のYouTubeチャンネルより

波紋を呼んだ経団連会長の「原発再稼働・新増設」発言

 去る4月8日、経団連中西宏明会長(日立製作所取締役会長兼代表執行役)が、政策提言「日本を支える電力システムを再構築する」を発表しました。(参照:”経団連:日本を支える電力システムを再構築する (2019-04-08)”)  各メディアはこの発言を受けて、以下のように報じました。 ●”経団連会長「電力は危機に直面」 国民理解前提に 原発再稼働求め政策提言”2019/04/04 東京新聞”原発の運転延長、経団連が提言 日立出身のトップが主導”2019/04/08朝日新聞”原発の再稼働・新増設・建て替え必要 経団連が提言”2019/04/08毎日新聞  そして私は、この発言を見て、以下のような感想を抱きました。  ヒノマルゲンパツPA(パブリックアクセプタンス)*とは、政府系・電力系の2系統が中心でした。それで、今までメーカーはあまり表に出てきませんでした。ところが、今回、経団連の中西会長がメーカー代表として独自のPAに乗り出してきたことに、強い危機感を覚えたのです。しかも、中西氏は経団連会長という公職性の高い立場へ、日立会長の利害を持ち込むという公私混同をしています。  つまり、今後は政府・電力・メーカー(産業)の3系統でヒノマルゲンパツPAが進んでいくわけです。しかも、経団連は電力よりカネを持っている。その上、今となってはかつての石炭政策と同様にメンツのためだけの政府系や、もはや半ば意地でやっているかのような電力系は失敗しても死ぬわけではないのですが、海外でことごとく失敗したメーカー系は、これ以上失敗したら会社が潰れるわけで、必死さの度合いが違います。  安倍政権下でいまやすっかり大政翼賛経済団体と化している経団連が、この「提言」を出したことが何を意味するのでしょうか?  当初、PAシリーズはいったん区切りを付けるつもりでしたが、4/8経団連発表によって考えを変えました。今回から長期に渡り、この経団連発表を軸に様々な側面から分析を試み解説します。  <*:PA(Public Acceptanceパブリックアクセプタンス 社会的受容 原子力発電所、ダム、高速道路や、新ワクチンなどその事業が社会(多くは地域社会)に大きな影響を与える場合、事前に社会的合意を得ること。民主社会において重要な手続きである。 しかし日本においては、PAと称して、詭弁、ごまかし、嘘、便宜供与、恫喝など、「嘘と札束と棍棒」によって市民を分断し、服従させる手法がまかり通っている。これは本来のPAを換骨奪胎した日本独自の異常なものである。筆者はこれらを(親方)ヒノマル◎◎PAとして本来のPAと区別している>

「ヒノマルゲンパツ」PAの宿痾

 合衆国は、核兵器と軍用原子炉、そして商用として日本に比して遙かに健全に育った商用原子力利用、更に様々な原子力・放射線・核産業が裾野の広い市場を形成しており、すでに新規原子炉の建設なしでも原子力産業は生きて行けます。また、莫大な知的資産をもとに国際原子力市場でも稼ぐことが出来ます。日本とは核が、否、格が違います。東芝などWH(ウエスチングハウス)の「暖簾(のれん)」を高値買いして事実上破綻してしまいました。  原子力と核を語る際に絶対に忘れてはいけないのは、P5(五大国=先行核保有国)にとっては、彼らこそが人類(貴族)であり、後発核保有国が亜人類(ゴブリン)、非核保有国はせいぜい猿扱いであるし、実際そのくらいの実力差があると言うことです。日本原子力史を紐解くとそのことを必ず痛感させられますし、国際会議や外交の場で悔し涙を流した先達の苦しみはたいへんなものです。現在も、よくてカネを背負ってやってきたチンパンジー程度の扱いと自覚すべきです。  これはとくに近年の産業界トップや政治家の発言、そして、それらが資金提供しているヒノマルゲンパツPAにおいて著しいのですが、それらの特徴は、徹底した無知と「カモネギ風情」の身の程知らず、ドグマ(教義)汚染による硬直思考が基本にあり、現状分析能力を著しく欠いたファンタジーに過ぎません。原子力と核は徹底した実証に成り立っている学問であり、産業であるのにです。一連の中西氏による発言は、その典型といえましょう。
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あの発言の背景にある「日立の事情」
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