これまで八回の連載で肱川流域103kmの状況をお知らせしてきましたが、肱川大水害は、ダム操作という表層的なものが原因ではなく、
鹿野川ダム計画来70年間に及ぶダム偏重河川事業により、肱川が、見てくれだけのガラクタ治水による無治水河川(精々欠陥治水河川)であったことが真の原因であり、この見てくれだけの無治水河川を放置し、相変わらずのダム利権にたかり続けることによる行政災害が肱川大水害であるといえます。
すべては予想出来、防止出来たことであって、肱川大水害と福島核災害は極めて酷似した行政災害といえます。
肱川大水害の後に結成された「野村の未来を守る会」による公開質問状への回答も、徹底して現場を矢面に立たせ、過去七〇年の無治水河川肱川を放置してきた本丸は徹底して隠れるというものになっています。
実は、野村ダムは洪水時の調整放流量を最大毎秒1000トンで設計されており、ダム直下の野村町内、野村大橋まではそのように河川整備されています。仮に
肱川が過去70年の治水事業によって全流域でダムの最大調整放流量(野村ダム毎秒1000トン)に対応して整備されていれば、ダムは時間稼ぎに成功し、人的被害は生じなかった可能性があるという指摘がなされています*。
<*京都大学名誉教授 今本博健博士による。
“ダム計画・操作 疑問視 大洲で講演 水害要因 識者指摘” 2018/12/2 愛媛新聞
この指摘は、他からもなされており、肱川大水害は決して不可避ではなかったと考えて良いでしょう。実際には、鹿野川、野村両ダムの放水によって大洲市で水害が頻発するため、1996年にダム操作の見直しがなされ、野村ダムの放水量は毎秒300トンに下げられました。これにより、豪雨災害の時に野村ダム湖が満水になる可能性が飛躍的に高まり、ダムの治水効果である時間稼ぎが大きく損なわれたといえます。
この原因は、過去八回の連載で写真によってご紹介したとおり、
堤防があっても切れている、
堤防があっても低いところが必ずある、
堤防がない無治水地区が非常に多いという事実上の
無治水河川であったことといえます。また、河道への砂礫の堆積も激しく、前掲の今本博士の指摘の通り、誰が見ても異様な激しく河道堆積した河川であることも特徴です。河道掘削は、河川の流下量を維持する最も低コスト且つ効果的な手法ですが、2004年の肱川水系河川整備計画*では、「河道の掘削は行わない」と随所に明記してあり、基本的治水事業を行わないとする固い決意を示しています**。
<*
肱川水系河川整備計画【 中下流圏域 】平成16年5月国土交通省四国地方整備局 愛 媛 県>
<**河道掘削は、生態系に大きな影響があるために環境保全上は慎重である必要がある。事実、河川整備計画では、河道掘削をしない理由を事実上、生態系の保全であるかのように表現している。また、肱川は支流が非常に多く、土砂堆積の激しい河川でもあり、河道掘削の効率が良いとは言いがたい。しかし、愛媛県内の河川に共通するが、中流下流域の河道への砂礫の堆積は特異的に目立つ。また、河川敷の樹木伐採にも消極的と言うほかない。河川事業の行政資源を他へ傾斜配分しているものと思われる>
肱川の特長は、野村、鹿野川という二つのタンデム配置のダムに河川行政資源を重点的に傾斜配分し、更に山鳥坂ダム新設事業に傾斜配分する。結果として堤防整備などの基本的治水・河川事業は70年間疎かにされ続けてきたことにあります。
結果として、野村、鹿野川両ダムは手足を縛られた(野村ダムでは放水量を3割にとどめられた)状態であったためにその治水能力を発揮出来ず、本来防げたはずの大水害を発生させたと考えられます。
論より証拠、まずは前回以降の肱川流域の変化をご紹介します。
写真で見る現況。大洲市矢落川合流点から野村地区まで
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矢落川左岸より肱川合流点左岸堤防を望む2019/3/21 撮影 牧田
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矢落川左岸より肱川合流点を望む2019/3/21 撮影 牧田
これまでの東大洲氾濫の原因であった矢落川合流点左岸堤防は、無堤から暫暫定、暫定を経て、堤体の高さが本来あるべき高さに近づいていいます。しかしいまだに堤高が足りず、更に右岸は手がつけられていません。右岸は高台が手前にあるために氾濫しても写真右の建物だけが犠牲になるという考えのようです。しかしいまだに矢落川河口は、予讃線の鉄橋により大きく狭窄しており、
大規模洪水では橋梁部で氾濫、橋梁も崩壊し、写真奥の県道も破壊される可能性があります。また、河道が著しく埋まっています。
鉄道橋かさ上げ、架け替えには多大の予算と時間を要しますが、河川治水事業の基本であって、過去70年の治水事業で解決しているべきものです。高知市国分川にも同じ問題があり、
98高知大水害で氾濫を拡大させましたが、その後10年ほどで解消しています。本来、「こうかはばつぐん」であるために優先順位の高い事業です。
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肱川左岸のパイピング発生地点2019/3/21 撮影 牧田
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西大洲遠景 重機のいる場所はパイピング発生地点2019/3/21 撮影 牧田
大洲市街、旧城下町の肱川左岸には一カ所
パイピング(浸透水の挙動により生じる地盤や構造物が破壊されること)により堤防が決壊する可能性のあった場所がありますが、現場の家屋を取り壊し、修復作業が進められています。
写真の田園地帯は4m以上の浸水で、街道奥の古い集落も大きな浸水被害を受けました。無堤、暫定堤防の堤防整備が進められていますが、
道路のかさ上げが着手されておらず、現状では治水機能が大きく制限されます(洪水時には水防扉または土嚢が必要)。
河床への砂礫の堆積が非常に目立ちます。
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肱川左岸柚木地区から上流側右岸如法寺地区を望む 2019/3/21 撮影 牧田
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如法寺地区の浸水した建物内部 窓の外に柚木地区が見える 2019/3/21 撮影 牧田
東大洲と並んで激しい被害を受けた柚木(ゆのき)地区、如法寺地区は、
柚木地区では堤防が低く、如法寺地区は堤防が非常に低い無堤地区といって良い状態です。
ともに
復旧は遅れており、目立った治水事業は行われていません。沈下橋左に見える砂礫の堆積は、かつてはなかったもので、長年の河道堆積の放置が現在も続いています。
大洲市菅田甲にある食品工場 2019/3/21 撮影 牧田
過去の水害の教訓から整備された水防壁を乗り越えた水で浸水したとのことです。とりわけ低地に立地しているという訳ではありません。