両親の姓が違うと子どもがかわいそうだという意見も根強くある。しかし井田さんによると、生まれつき両親が別姓の子どもはそのことを疑問に思うこともなければ、そのことで困ることもないという。
「日本・海外ともに多くの子どもの体験を聞きますが、両親が元々別姓である場合、子どもはそれを『普通』と思って育つので、気に病むことはほとんどありません。
大人が『多数派でないことは異常』と偏見をもって教えない限り、ネガティブに捉えることもありません。生活していて困ることもないんです。
かわいそうだという人は、実在しない子どもを隠れ蓑に、『私は別姓の子どもは異常だという差別意識を持っています』『私は子どもにも同調圧力をかける人間です』と表明しているにすぎません。
そもそも現代では、両親の姓が異なるということを子どもの同級生や他の保護者が知る機会はあまりありません。
仮に『親が別姓』を理由にいじめられるケースが実在するなら、なぜいじめるほうを正さないのでしょう」
夫婦同姓が日本の「伝統」でないこともよく知られている。
夫婦同姓が始まったのは、1898年(明治31年)に旧民法が施行されてからのことだ。
「明治時代に脱亜入欧を目指して、ドイツの制度を輸入したものが夫婦同姓です。日本の伝統とは言えません。はすみ氏のいう家制度も、1898年に始まって1947年には廃止されており、『2679年』どころか
50年未満の歴史です。
ただ、明治以降の慣習でも『伝統』と呼ぶのであれば、それはそれで構いません。しかし今の社会に生きる人々が困っているのですから、
『伝統』に固執するのではなく、時代の要請に合わせて選択肢を設ける必要があるのではないでしょうか」(井田さん)
そもそも選択的夫婦別姓を容認しても、全ての夫婦が別姓にしなければならないわけではない。これまで通り同姓にしたい夫婦は同姓を選ぶことができるのだ。井田さんは「
なぜ他の夫婦が別姓を選択することすら認められないのでしょう」と首をかしげていた。
井田さんが事務局長を務める「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」は、夫婦別姓を求める人たちのネットワーク。メンバーは各々が在住もしくは在勤の地方議会に対し、陳情を行っているという。井田さんは「夫婦別姓を求める当事者たちの声を届けていく。世論も過半数は別姓に賛成・容認を示しており、認められるのは時間の問題だと思う」と話していた。
<取材・文/HBO編集部>