話は変わって、先日Netflixで観た『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』というドキュメンタリー映画がとてもスリリングで、示唆に富んでいた。
アメリカの若い起業家が、アーティストやインフルエンサーのイベント出演依頼をアプリで直接出来る画期的なサービス『FYRE』を開発し、そのPRのために無人島での超豪華フェスの開催を思いつく。カリブ海で撮影した甘美なプロモーション映像と、Instagramでの大規模なインフルエンサー・マーケティングにより、高額なフェスのチケットは瞬時に完売。メディアの注目を集めることに成功する。
しかし、FYREのローンチからフェス開催までの準備期間は、わずか2か月しか想定されていなかった。イベント業者は右往左往し、予算は早々にパンク。アーティストには出演を断られ、開催地の変更も余儀なくされて、完全に迷走。「今世紀最大のゴージャスな音楽イベント」を期待して訪れた1万人の参加者は、まるで「無人島0円生活」のようなサバイバル状態に直面することに……。
この起業家の最大の敗因は、デジタル・マーケティングの感覚でリアル・イベントができると見誤っていたことだろう。デジタルのサービスはローンチ後も改善を繰り返せるけれど、大規模イベントは事故が起こってからではもう遅い。無人島フェスのような人命にもかかわるようなイベントは、あらゆる事故を想定して、十分な検証期間を設けるべきだったのだ。
ユーザー体験をスマホのなかで作るか、リアルな世界で作るかで、ルールが異なる部分もあるけれど、その双方を武器として使えていれば、FYREフェスティバルは本当に史上最高のフェスとして成功した可能性もあったと思う。
デジタルとアナログ、新世代と旧世代、個人と企業、外資系と日系、論理と腹芸。サラリーマンの働き方が大きく変わる節目の時代なので、価値観の対立や世代間闘争を煽る文言が多く飛び交うけれど、対立しているように見えるものが意外と両立しうる両輪と捉えたほうが、なんだかんだでうまくいくのでは、という話でした。
<文/真実一郎>
【真実一郎(しんじつ・いちろう)】
サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『
サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある
サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある