就活で連戦連敗の泥沼。負の連鎖を断ち切った面接官の一言 <「サラリーマン文化時評」#8>

 就職活動シーズンなので、まずは自分の(ずいぶん昔の)思い出話を。私は大学時代、英語会という巨大サークルに所属して、ディベートという活動に勤しんでいた。与えられた議題に対してランダムに賛成側と反対側にわかれ、決められた時間で立論と反駁を交互に行い、勝ち負けを競う、大学対抗の討論ゲームだ。

就活の負の連鎖を断ち切った面接官の一言

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 もともとディベートに興味があったわけではなく、美人の先輩に気に入られたくて、誘われるままに始めただけだった。でもいつの間にかハマり、ラッキーなことに大学3年生時には全国大会のひとつで優勝した。  名門校の数々を打ち破って日本一になったことは、多少なりとも自信になり、就活でこれをアピールすれば内定がもらえる、そう楽観していた。でも就活は連戦連敗。 「大学時代は英語ディベートに本気で取り組み、全国大会で日本一になりました、そこで得た<論理的思考能力>を御社で生かしたいと思います」  こうアピールすれば他の学生から頭ひとつ抜けてみえるはずだと思っていたのに、面接は落ち続け、内定をひとつも貰えなかった。  あるとき、今日もまた落ちたなと思った面接の最後に「自分の面接で悪かったところを教えてください」と聞いてみた。するとその面接官は熟考してくれたうえでこう言った。 「君は良くも悪くも、間違ったことを言わなそうにみえる」  その一言で気がついた。<論理的思考能力>を強調する自分は、正論やきれいごとしか言わない、理屈っぽくて頭でっかちの奴だと思われていたのだな、と。サラリーマンは、清濁併せ呑まなければやっていけない泥臭い世界だから、理屈だけの部下とは働けない、面接官たちはたぶんそう判断していたのだった。

自分に足りなかった要素を知り自己アピールを修正

 自分が面接で足りなかったのは「人間味」「かわいげ」「泥臭さ」だ。内定をひとつも貰えないまま、就活シーズンはすでに終盤。必死になって自分を掘り下げ、自己アピールをこう修正した。 「大学時代は英語ディベートに本気で取り組み、全国大会で日本一になりました、そこで2つの能力を得ました。<論理的思考能力>と、<根回し能力>です。ディベートは論理を競うゲームだけれど、勝敗を決めるのは機械ではなく、ジャッジ(他大学の4年生ディべ―タ―)、つまり人間です。論理だけでは勝てません。だから練習試合の数を増やしてジャッジたちを呼んで普段から仲良くしたり、大会中も試合後に話しかけて日本語で補足説明したりして、泥臭く勝ってきました。この2つの能力を御社で生かしたいと思います」  これが面白いようにウケた。面接が盛り上がったし、内定も次々と貰えた。あの日、自分の弱点を指摘してくれた名前も知らない面接官のおじさんには、今も感謝している。  欧米的な<ロジック>と日本的な<腹芸>。どちらか一方ではなく、このどちらもできるということが、面接官からしたら意外性のある希少価値だったというわけだ。このとき以来、仕事でも「ふたつの相反しそうな価値を両輪にして併せ持つ」ことの強みを、たびたび意識するようにしている。
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真逆の観点との両立がこれからのカギに
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