「地下鉄サリン事件から24年の集い」で語られた警察とメディアの問題

メディアの問題

メディアの問題点

メディアの問題点

 中村弁護士は警察のこうした問題点を指摘すると同時に、メディアのあり方にも疑問を投げかけた。  ひとつは、「TBSビデオ問題」だ。  1989年、オウム真理教で出家した子供を取り戻したいという親からの相談を受けたことがきっかけで、坂本弁護士はオウム真理教の違法性などを追求する活動を開始した。その中で、TBSが坂本弁護士にインタビューを行った。ところが、放送前にオウム側がビデオを見せるようTBSに要求。TBSはインタビュー映像をオウム幹部だった早川紀代秀(坂本弁護士一家殺害事件の実行犯のひとりで、昨年7月に死刑執行)らに見せてしまう。その上、TBSはビデオを放送せず、オウムに見せてしまったことを坂本弁護士に伏せていた。 「もし、(1989年)10月27日に予定通り坂本さんのインタビュー映像を流していてくれていれば、もしかしたら11月14日の坂本さん襲撃はなかったかもしれない」(中村弁護士)  この問題は地下鉄サリン事件後に発覚し、国会でも取り上げられる騒ぎになった。  中村弁護士はTBSビデオ問題以外も含めて、メディアもまた「宗教の壁」を乗り越えられなかったのではないかと指摘。「宗教弾圧だ」と抗議されるかもしれないという可能性を前にして、メディアは萎縮していなかっただろうか、という問いかけだ。  また、メディアまでもが松本サリン事件で河野義行氏を犯人扱いしていた点について、「警察のリークをそのまま右から左へ報道していなかったでしょうか。自分で押収品目録を取材で手に入れて、サリンが作れるかどうか確認したメディアがどれくらいいたのでしょうか」と語った。中村弁護士は「化学兵器の壁」としてこの点を挙げたが、むしろ「記者クラブを通じての発表もの報道の壁」かもしれない。 「また、潜入取材の罠にかかっていませんか。これは『独占取材権をあげるよ』と麻原に言われて、『これは視聴率が稼げる。だから麻原と取り引きしよう。そして麻原にも警察情報を提供しよう』。そんなことがなかったのかどうか」(中村弁護士)

オウムを持ち上げた宗教学者

 オウムを好意的に評して宣伝に加担した宗教学者の問題にも言及した。 「麻原やオウム真理教を面白おかしく取り上げていた場面については、皆さんご承知だと思います。いまでもYouTube等を見れば、そういった場面が出てきます。たとえば、宗教学者や知識人の問題点。麻原を支持した宗教学者が複数いましたが、また知識人もいました。これもYouTubeで『オウム真理教 有名人』と検索するとすぐに映像が出てきます」(中村弁護士)  もちろん、こうした宗教学者・知識人たちの責任は重大だが、そもそも、彼らの言説を世間に流したのもまたメディアだ。  当時オウムを好意的に評したり擁護したりした宗教研究者は山折哲雄氏、中沢新一氏、島田裕巳氏などだが、現在では顔ぶれが変わっている。中村弁護士は言及しなかったが、オウム真理教の後継団体の一つである「ひかりの輪」(代表=上祐史浩氏)を好意的に評価する論文などを発表している鎌田東二氏や、団体規制法に基づく観察処分を外すための報告書に意見書を寄せるなどしている大田俊寛氏。そしてひかりの輪に事実上「勧誘」の場を提供しているトークライブハウス「ロフトプラスワン」や、そこで上祐氏と共演するサブカル人も複数いる。  中村弁護士の講演はオウムをめぐる歴史を示したものだが、それは単なる昔話ではなく、いままた繰り返されている歴史であることを忘れてはならないのではないだろうか。
次のページ 
「風化という意味がわからない」
1
2
3