2014年のブラジル大統領選では、WhatsAppで協力者にツイッターやフェイスブックに投稿するよう連絡するなどさまざまな手法がネット世論操作で用いられた。
また法律での規制には限界があることもわかった。法律でネット世論操作を検知し、防止することは困難なのだ。
選挙後、バスの運賃値上げをきっかけに大規模な抗議行動が始まり、ワールドカップやオリンピックにムダに税金が使われていることまで巻き込んだ反政府運動となった。大統領の汚職事件(洗車作戦)が事態をより深刻にした。なお、洗車作戦は多くの国を巻き込んだ石油にまつわる汚職事件である。
ネットにはフェイクニュースが増加した。政権党が社会主義化を計画しているとか、アメリカのトランプ大統領のフェイク「ハイチ人を5万人雇ってアメリカで投票させた」とか、アメリカはブラジルの汚職を扇動して石油を乗っ取るつもりだとか、国内およびアメリカ関連のフェイクニュースが多くの国民に信じられた。
このレポートによれば、SNSが抗議活動の組織化と拡大でキーとなる役割を果たしたのは間違いないとしている。最終的に、大統領は弾劾されて職務を停止となった後に、国会の罷免投票で罷免となった。
2016年、リオデジャネイロで地方選挙が行われた。ここでは従来のボットに代わりサイボーグの利用が増加したようだ。選挙コンサルタントによると、この時使われたサイボーグは、候補者のフェイスブックを訪れてた支援者が、いいね! を押しましょうという文言をクリックすると自動的に支援者のプロフィールが候補者に取得され、以後継続的に候補者の活動などをフォローし続けることになる仕掛けによってサイボーグを増やしたようだ。さらに市長選では候補者が違いに攻撃し合い、フェイクニュースが流れた。ここでもボットの利用が発見されている。
2014年の大統領選挙は、2つの大きな教訓を残した。法制度による制御は困難であり、ネット世論操作の戦いは選挙機関だけでなく、選挙後もネット世論操作を継続し、弾劾に持ち込むことができるのだ(当選した大統領は弾劾され、罷免されている)。
また新しい法律による規制はSNSアカウントとリアルIDとの結びつきを強め、監視する方向に向かうため、注意が必要とも指摘している。
ネット世論操作調査を継続的に行っている大西洋評議会のデジタル・フォレンジックラボは、ブラジルの選挙も追跡しレポートしていた。
『#ElectionWatch: Loves For Sale In Brazil』(2018年8月15日)では、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどのいいね!、シェアなどを販売する業者PCSDやFrases & Versosなどを紹介している。
業者はフェイスブックの1万いいね!を$60.00で販売していた。レポートでは業者が堂々と告知しているのにフェイスブックは放置していた(記事の時点では)ことを問題視している。
2018年8月9日に行われた大統領候補の最初の討論時のSNSはネット世論操作の戦場となった。3時間で159万のツイッターのメンションがついた。デジタル・フォレンジックラボによれば選挙前にトレンド入りしたフェイクニュースがあり、それはツイッター社により大統領候補のひとりボルソナーロに関するものだったとして削除された。
ファクトチェック組織Lupaは候補者らの発言から8つのフェイクニュースを見つけたが、もっとも多くこれらに関する発言を行っていたのはボルソナーロ(のちに当選)だった。
『#ElectionWatch: Bots Around Brazil’s First Presidential Debate』(2018年8月17日)を読むと、ブラジルの大統領選ではボルソナーロが序盤から激しくネット世論操作で攻勢を掛けていたことがよくわかる。