文化庁は、キャッシュを取り出して別のソフトウェアで閲覧したり、別の記録媒体に保存する場合は違法と考えている。しかし、ソフトウェア開発者としては疑問が残る。
先述のように、Webブラウザのキャッシュは、誰でも簡単に閲覧ができる。同じソフトウェアで開くか、別のソフトウェアで開くかは手順の問題でしかない。それにWebブラウザには、オフライン ブラウジングの機能もある。ネット非接続時に、キャッシュをもとにWebページを表示する機能だ。
また、Webブラウザのキャッシュの記録場所は、設定で自由に変えられる。その保存先をUSBメモリにした場合はどうなるのか。そのUSBメモリをパソコンから抜いて、別の場所で続きのブラウジングをすると犯罪になるのか。
Webブラウザ自体をUSBメモリに入れて完結させることもできる。キャッシュの保存先も全てまとめてポータブル(持ち運び可能)にできるのだ。それは犯罪的な行為なのだろうか。
Webブラウザだけの問題ではない。情報の収集をおこなうために、ネット上の情報をダウンロードして集めるWebクローラーの作成も困難になる。
Googleのような検索エンジンは、ネット上のファイルを大量に集めて、検索という新しい価値を提供している。違法か適法か判断しながらファイルをダウンロードすることは事実上困難だ。こうしたサービスは、今後日本から生まれなくなるだろう。そうなると、今後出てくる情報技術のイノベーションを阻害することは容易に想像できる。
私は法律の専門家ではない。そのため「キャッシュ」というソフトウェアの仕様の面から、静止画ダウンロード違法化について考えてみた。
<文/柳井政和
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やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『
裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『
レトロゲームファクトリー』。