ピッツバークからフリントへ。悩ましい公共水道を民間企業に任せてしまった悲惨な結末

世界各地で論争を起こすヴェオリア

 フランスの複合企業CGEから身を落としたヴァオリアは1853年からパリの水道供給を行い19世紀には下水道サービスも担った。ヴェオリアは世界50か国以上で操業し、収益の多くを水道とそのほかの公的ユーティリティーサービスから得ている。安全な十分な飲料水の確保が世界中で難しくなる中、企業は収益を増やしている。  アメリカでは12%の人々が支払い可能なレベルの飲料水の確保が困難であり、今後気候変動問題と老朽化するインフラのせいでこの数字は5年後に3倍になると試算されている。  ヴェオリアは自身をこのような水のグローバルな危機の解決者として宣伝し成長しているが、民間水道に取って代わったことで水道システムが安定化したという証拠は乏しい。そして民間水道事業がコストを下げるという事実も同様に乏しい。公共事業体は水道から利益をあげることはできないが、企業はできる。そして企業は水道料金を上げる傾向が強い。時には大幅に。  アメリカにおいて民間水道は公共水道よりも平均で59%高い料金であると米NGO「Food and Water Watch」は2016年の報告書で発表した。カリフォルニアのリアント市では2012年よりヴェオリアと投資ファンド会社とチームを組み水道のリース契約を担っているが、水道価格は68%上昇した。ニューヨークでは、民間水道事業体のサービスは公共水道の2倍である。  世界の水の危機の解決者と自認するヴェオリアエンバイロンメントは300億ドル以上の収益を上げ、過去5年間で株価は二倍以上になっている。ヴェオリアがバハマに設立したオフショア法人※はパラダイス文書のデータベースに掲載されている。少なくともその収益の一部はここに送られているだろう。(※訳注:租税環境が優遇されている租税回避地・タックスヘイブンに設立された法人でその収益源がすべて国外で作られる法人形態。海外収益は非課税でそのお金を使って再投資し、投資で発生した利益分についても非課税)  近年、10を超えるアメリカの自治体が上下水道のサービスの契約をヴェオリアと結んでいる。ニューヨーク市、イリノイ州のウッドレッジ、オハイオ州のダイトン、ヒューストンなどである。これらは小さなコンサルタント契約から企業が水道に関するほぼすべての意思決定と運営をするものまで幅がある。  いくつかは決してうまくいっていない。ケンタッキー州のホワイツバーグではヴェオリアが未払いの水道請求書をめぐって市を訴えている。カリフォルニア州のバーリンゲームでは環境団体が汚水の流出でヴェオリアを訴えている。テキサス州のアンゲレトン市は下水処理施設に十分でないスタッフしか配置していなかったとしてヴェオリアを訴えている。インディアナポリスでは市民がヴェオリアが過剰な料金請求をしたとして訴えている。ヴェオリアが下水サービスの契約を持つマサチューセッツのプリマスでは州司法長官マウラ・ハーレイが2016年に下水処理施設の運営を怠り本管から1000万ガロンの汚水を流出させたとして訴えている。  ヴェオリアの広報官担当ブラークはハーレイの申し立てについて、ヴェオリアが責任を持っていなかった「本管が破裂を起こした」ことを法廷で立証するつもりであり「私たちは事故の前にこのデザインの欠陥について市に何度も懸念を表明していた」とeメールで反論した。ヴェオリアに関わる他の係争中のケースについて広報担当はコメントをしなかったが「私たちはすべてのクライアントに傑出したサービスを提供しており、輝かしい業績を誇っている」と付け加えた。  この企業の業績は、カナダフランスガボンでも論争を引き起こし精査を受けている。  2015年、ルーマニアの反汚職局はヴェオリアの現地法人「Apa Nova Bucuresti」の調査を開始した。経営陣が水道料金を大幅に値上げするために複数年に渡って数百万ユーロの賄賂工作を行っていた疑いがもたれている。ヴェオリアの子会社は料金値上げの承認を得るために偽りの契約書を使って1200万ユーロの賄賂を行政官とその周辺に融通した疑いがもたれている。調査はフランスとアメリカの証券取引委員会にまで及んでいる。  水問題に詳しく国連のアドバイザーも務めたカナダのモード・バーロウはこのような争議は水道民営化に付きまとうと言う。 「営利を目的にしない水道事業と同じ事業費で株主に十分な配当金をださなくてはいけないわけですから、当然の帰結として企業はスタッフの数を減らし、手抜きの仕事をします」  トランプの計画が現実になれば、公共水道システムからますます企業が利益を上げることになる。企業が提供する水道サービスで何か問題が起これば、自治体や市民は契約を終了させる以外に大した手段を持っていないとバーロウは言う。 「いかなる問題が起きたときも企業にその責任を負わせるのはとても困難です。政府も悪い決定を度々しますが、少なくとも私たちは政府ならば、投票行動でその責任を問うことができます」  明らかに何人かのピッツバークの役人はヴェオリアとの論争の終わり方に心を痛めている。 「この調停で、ヴェオリアは進行中の鉛汚染危機から窮地を抜け出した一方で、PWSAの水道利用者は自分たちを守るためにも問題を解決するためにも逃げ場はないのだから」と、アレゲニー郡監査人のチェルシー・ワグナーは声明文で表明した。  事実、法的な混乱が片付いたとは言えピッツバークの鉛危機は解決していない。最新の水質調査の結果は2018年1月に発表されたが、鉛濃度は21ppbでいまだに国の安全基準である15ppbを大きく上回っている。  2012年から2015年の間にPWSAの監督でヴェオリアは1100万ドル以上を儲けたわけであるが、この会社が進行中の鉛汚染を解決するためにこの利益を使うことはない。1月の調停ではヴェオリアが要求していた490万ドル以上のサービス対価の要求を取り下げることと、水道料金の支払いができない世帯のための基金にヴェオリアが50万ドルを寄付することが含まれていた。しかしこの寄付金はPWSAが2017年末にペンシルベニア州環境局に課された240万ドルの罰金を考えると、それほどありがたいとは言えない。罰金は腐食コントロールの化学薬品を許可なしに変更したことや鉛の濃度が国の基準を超えたなどの違反行為によるが、その両方ともヴァオリアの管理下で起きたものだ。  この苦い闘いに続いて、フリントとピッツバーク両市で起きたもう一つ共通のことがある。両市とも水道水の管理を公的な機関に戻したのである。再度の民営化の可能性がないわけではないが、2017年ブルーリボン委員会(訳注:調査、研究または分析を行うために任命された学識経験者のグループで、ある程度の独立性を有する)はピッツバークの鉛汚染の解決をPWSAからパブリック・トラスト(訳注:公共的な自然独占の分野で法令によって設立された政府から独立した事業体)に移行する勧告をした。フリント市は以後30年間グレートレイク公共水道事業機関の管理下に入ることになった。  ヴェオリアにも大きな変化があった。ピッツバークで論争の末に契約が終結して以降、同社がアメリカでピアパフォーマンス契約を獲得できずにいると、業界紙の『グローバルウォーターインテリジェンス』は報じた。このコスト削減成果をクライアントと分け合うモデルの見直しをしているとも同紙は報じた。その代りにヴェオリアの関心は暴風雨・洪水後のニューオリンズで2017年夏に契約を獲得したことに見られるように、暴風雨関連契約や精製所、化学プラント、製造産業向けの総合的な水道ユーティリティーサービスに移っているようだ。  フリントでのヴァオリアに対する訴訟は継続中であり、最近ではフリントの住民は州が無料で配布していたボトル水のサービスを終了することを知らされた。司法長官特別アシスタントのノア・ホールは、ミシガン州が少なくとも被害の一部をヴェオリアに支払わせることができると希望を持っている。「私たちはヴェオリアの利益をコミュニティーを再建し、社会サービスと保健医療を提供するためのトラストファンドに充てたい。」とホールは言う。しかしピッツバークでの合意を見れば、彼とフリント住民が失望する可能性は高い。 <文:Sharon LernerLeana Hosea via The Intercept 翻訳・序文文責/岸本聡子> きしもとさとこ●2003年よりオランダ、アムステルダムを拠点とする「トランスナショナル研究所」(TNI)に所属。経済的公正プログラム、オルタナティブ公共政策プロジェクトの研究員。編著『再公営化という選択―世界の民営化の失敗から学ぶ』(2018年1月)は全文インターネット公開。共著『安易な民営化のつけはどこにー先進国に広がる再公営化の動き』(イマジン出版)。
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