しかし、北海道ほどの観光地を走るだけに、それだけでも充分ライバルたちに対抗しうるインパクトを持っているはず。たとえば、食事面で言えば、それこそ北海道はどこに行っても魅惑的な食材の宝庫だ。
「それはそのとおりですが、だったらなぜこれまでその豊富な観光資源を活かしてこなかったのか。今でも富良野線や釧網本線など、一部の路線では観光色の強い列車を走らせていますが、北海道の魅力を充分に活かしているとは言えないし、利用促進にはほとんどつながっていません。あれだけ他の地域がうらやむ観光地を走っているのですから、本来なら観光列車で他社に先行していてもいいくらい。それが他社の後塵を拝しているというのが残念です」(鉄道ライター・M氏)
度重なる不祥事や経営難もあって、車両の新造も取りやめるほどのJR北海道。当然、観光列車への投資もままならないという事情もあろう。また、観光列車は地域活性化などの効果はあっても、直接的な利益はほとんどないという見方もある。しかし、もっと早い段階から“観光”に手をつけて、そのブランド化に成功していれば今日のような経営難を招くことはなかったかもしれない。
「もちろん、なにもやらないよりはマシです。JR北海道に期待をするというよりも、今回の観光列車の取り組みをキッカケに“オープンアクセス”、つまり他の事業者がどんどん北海道に乗り入れて観光列車を走らせるようになればいい。JR北海道は直接的な運行(運転など)と線路の保守をして使用料を受け取ればリスクも少なく収益になりますし、他社は培ってきた観光列車のノウハウを北海道で存分に発揮できるわけですから」
JR北海道は、自社でも2020年までに特急型を含む観光列車を新造することを発表。すでに’18年には「北海道の恵み」なる列車も導入している。ただ、M氏が話すように観光列車は“作って走らせればOK”というシロモノではない。いかに良質なサービスを提供しつづけるかがすべてのカギを握るのだ。
観光列車を走らせている某事業者の関係者は、「天気が悪くて車窓がまったく楽しめないときこそ腕の見せどころ。お客さまの満足度を天候のような外的要因のせいにせず、どんなときでも100%喜んでもらえるようにしなければ意味がない」と話す。
はたしてJR北海道の“観光列車”はどんなものになるのか? そしてJR東日本・東急電鉄との協力はどんな効果をもたらすのか? 国交省の考える“JR北海道再建への秘策”は先述のオープンアクセス化だとも言われている。数年後、北海道を観光列車が縦横に走るなか、JR北海道が運行する列車はゼロ……などということにならないことを願いたいものである。
<取材・文/境 正雄>