本命ネトフリ映画がまさかの敗退。ダイバーシティを端々に感じたアカデミー賞

授賞式終盤に大ドンデン返しが

 注目の大賞である作品賞に向けては、メキシコの外国語映画『Roma ローマ』が下馬評通りの快調な受賞ぶり。’70年代メキシコの貧民家庭内労働者の生活を描いたこの作品は、とりわけメキシコ国境に壁を築こうとするトランプ大統領の政策に反対する人たちの共感を集め、前哨戦では圧倒的な強さを誇ってきた。  この日も、外国語映画賞、撮影賞、そして監督を手がけたアルフォンソ・キュアロンにとっては、’14年の『ゼロ・グラビティ』以来2度目となる監督賞を受賞した。  受賞作品に関しては、終盤までは波乱なく進行。しかし、最後の2部門でサプライズが待っていた。まず主演女優賞には、「7度目の正直」で初受賞と目されていた71歳のベテラン、グレン・クローズ(『天才作家の妻 40年目の真実』)ではなく、英国からの怪作、『女王陛下のお気に入り』でアン女王を演じたオリビア・コールマンが輝いた。  意外な受賞に当のオリヴィア本人もスピーチの準備をまったくしていなかったほどだったが、彼女がグレンを讃えたことで会場の空気が和んだ。  そして、最後の最後にもうひとつ大きな波乱が待っていた。作品賞のプレゼンター、ジュリア・ロバーツが読み上げた名前は、本命視されていた『Roma ローマ』ではなく『グリーンブック』!!  前哨戦の一部では勝っていたものの、その勢いは『Roma ローマ』の比ではなく、今回のオスカーでも『Roma ローマ』の10部門に対して、ノミネートはその半分の5部門。作品賞受賞の必要条件とみなされていた監督賞のノミネートを逃していただけに意外な結末となった。  『Roma ローマ』は新興勢力の動画配信サービス「Netflix」の配給で、映画館での一般公開が行われなかったことから、「それが足を引っ張ることになるのでは」との懸念もささやかれていたが、これまでの前哨戦でその悪影響を感じさせていなかった。それが最後の土壇場で、映画館非公開に対しての反対派の業界人に押し切られる形となってしまった。  司会者の不在、受賞者の多様性、そしてサプライズに満ちた今年のオスカー。アメリカ社会の現況を知るためも、受賞作品は必見だ。 <取材・文/沢田太陽>
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