本命ネトフリ映画がまさかの敗退。ダイバーシティを端々に感じたアカデミー賞

91st Annual Academy Awards

Photo by Jeff Kravitz/FilmMagic via Getty Images

 2月24日、ロサンゼルスのドルビー・シアターで、映画世界最大の祭典、アカデミー賞の授賞式が行われた。この3時間30分余りの授賞式には、今の映画界、そしてアメリカ社会の縮図が詰め込まれている。さっそく授賞式の概要を振り返ってみよう。

人種やセクシュアリティの多様性が全面に

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』のヒットにちなんで、アダム・ランバートを迎えたクイーンが「ウィ・ウィル・ロック・ユー」と「伝説のチャンピオン」という2つの代表曲を披露して、オスカーはいつになく華々しくスタートした。  例年ならここで司会者が出てくるところだが、今年は予定されていたコメディアン、ケヴィン・ハートが過去に行っていたLGBTへの差別発言で降板。それを機に代役をあえて立てず「司会不在」という形で行われた。  そのぶん、演出は例年以上に「間延びしないスムースな進行」を心がけているように感じられた。しかし、過去に名だたるスタンダップ・コメディアンたちが洒落た話術で進めてきた伝統のあるオスカー。そこは、この授賞式のひとつの大きな個性が奪われたようでも寂しくはあった。  昨年、一昨年にはトランプ大統領への痛烈な批判が展開されていたオスカーだが、今年はそれらと比較すると、プレゼンターや受賞者からの直接的な批判はやや抑えめ。だが、それでも時折はトランプ大統領への批判を匂わすものは姿を現したし、なにより受賞結果にそれが如実に表れていた。  まず、顕著だったのは賞の発表を行うプレゼンター。例年以上に「男女のペア」が多く、そのうちの片方に黒人やアジア系を配するパターンが目立った。  こういった多様性は受賞作、それも一般的な注目度の低い部門で目立った。長編ドキュメンタリー受賞作の『Free Solo』は中国系製作者、短編アニメの『Bao』は中国系親子の物語、短編ドキュメンタリーの『ピリオド 羽ばたく女性たち』はインドにおける女性の性教育に関する作品。『ピリオド』のインド人女性監督ライカ・ゼタブチは、驚きのあまりスピーチで「月経を扱った作品が受賞できるなんて快挙よ」と叫び、話題を呼んだ。  また、脚本賞を受賞したのは、’60年代における黒人差別を、黒人ピアニストとイタリア伊達男の粋な交流で描いた『グリーンブック』。脚色賞は’70年を舞台に、黒人警察官が同僚のユダヤ人をKKKに侵入させておとり捜査を行う『ブラック・クランズマン』という結果に。後者を手がけた黒人の人種解放運動の長きにわたるカリスマでもあるスパイク・リー監督だ。  受賞スピーチでは、自身の経歴を奴隷時代の先祖にまで遡って2020年まで語ったリー。「来年は、正しいことをしよう(ドゥ・ザ・ライト・シング)!!」と、自身最大の代表作に掛けた言葉で締めくくり、スタンディング・オべーションの喝采を受けた。  今回のオスカーでは黒人勢は強く、助演男優賞(マハーシャラ・アリ『グリーンブック』)、助演女優賞(レジーナ・キング『ビール・ストリートの恋人たち』)、そして昨年最大の興行ヒットとなった『ブラック・パンサー』も美術、衣装、スコアの3部門で受賞した。  また、この日快進撃を続けたのは、日本でも記録破りの大ヒットを記録した『ボヘミアン・ラプソディ』だった。音響編集、録音、編集と技術部門を勝ち取ると、注目された主演男優賞にフレディ・マーキュリー役のラミ・マレクが輝き、4部門目を受賞した。「この話は移民のゲイの物語で、さまざまな人に勇気を与えた」とスピーチで語ったラミ。「僕自身もエジプトからのアメリカ移民一世だ」と語り客席の喝采を浴びた。  『ボヘミアン・ラプソディ』同様、音楽面で大きく注目を浴びた『アリー/スター誕生』は主題歌賞1部門の受賞に終わったが、受賞曲「Shallow」のパフォーマンスを主演のレディ・ガガと相手役のブラッドリー・クーパーが力強く熱唱し、受賞に花を添えた。「勝つことがすべてではなく、諦めずに挑戦すること」とのガガのスピーチも、とりわけマイノリティ受賞の多かった今回のオスカーを象徴していた。
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