「反対派」長沢氏が語った、「乾式貯蔵施設」の無意味さ
1)四国電力は、何のために乾式貯蔵を行うのか
伊方発電所には、全炉合計2609体のSFP容量がある。2018年5月25日現在で全炉合計のSF貯蔵量は、1658体である。(単純計算では運転継続年数19年余りの余裕があり燃料交換作業用の余裕も含めると16年分余りとなり、ぎりぎり足りている)
しかし、1号炉2号炉の解体廃炉のために、1号炉SFPから2026年までにSF237体を取り出し、3号炉SFPに移設のうえで原子炉建屋等の解体を開始する。数年をおいて2号炉もそれに続きSF316体を3号炉SFPに移設する。結果、2030年までには553本のSFが3号炉SFPに移設されることにより、これらを想定した場合、3号炉SFPの残容量は現時点で350体分余りとなる。また、燃料交換作業用に207体分の空き容量が必須。そのため、実効残容量は150本分足らずとなる。
そのため、1回の定検で50体のSFが発生するので、残り定検回数は3回、2022~23年には3号炉の運転は不可能となる。
四国電力は、乾式キャスク貯蔵施設を建設することにより、1200体のSF収容力を新たに加えようとしている。これによって新たに20年分以上(約24年弱)のSF貯蔵容量を加えることにより、2034年に40年を迎える伊方3号炉(残余寿命15年)の運転が全期間可能となることを目指している。
四国電力が乾式キャスク貯蔵施設建設を行うのは、あくまで3号炉の運転期間を稼ぐためである。(長沢氏は、40年運転までで四電は満足するだろうという見立てだが、筆者は60年を目指すと見込んでいる)
伊方発電所は、燃焼度の比較的低い(発熱量や破損リスクの低い)二酸化ウラン燃料集合体が1221体あるため、乾式キャスク貯蔵(最大1200体)にはこれらが回される。
現実には、解体廃炉のためには、
解体発生放射性廃棄物の処分先が必須であるが、日本では全く立地の目処が立っていないために解体廃炉はすぐに中断に追い込まれるであろう。事実、東海発電所(GCR; 炭酸ガス冷却黒鉛炉)の解体廃炉は中断している。(東海GCRの場合、炉心の減速材である黒鉛が強く放射化しており、解体廃炉には放射能の減衰期間として長期間を要する。実際にGCRを多数運用してきた英国では、約150年の世代間管理によって解体廃炉を目指している。従って、軽水炉である伊方などを同列に語ることは誤っている。一方で、国内初の発電用軽水炉解体事例となったJPDR(動力試験炉)では、放射性解体瓦礫の所外処分に合意が得られず、すべて敷地内管理となっている。JPDRに比して100倍程度の解体瓦礫が見込まれる大型商用炉では、解体瓦礫の敷地内管理は不可能であろう)
乾式キャスク貯蔵所建設予定地 2019/01/11 撮影牧田
斜面麓の重機が稼働している箇所に標高25mの地盤を造成し建設する予定。建屋の規模は60m×40mであり、合衆国のISFSIに比して著しく狭隘(きょうあい)である。撮影牧田
2)乾式貯蔵後、使用済み核燃料(SF)の行き先はあるのか
日本国内で
HLW(High Level Radioactive Waste; 高レヴェル放射性廃棄物)最終処分場が立地出来る目処は全くない。後述するが、核燃料サイクルによるSF減量も止まっていて、再開の見込みはないし、再開すべきでない。
従って、
乾式キャスク貯蔵所がなし崩しに永久貯蔵所と化すであろう。
3)乾式貯蔵キャスク優位論の誤謬
10年経過したSFは、10年のSFP保管後には人体程度の発熱量(冷却開始後1/100程度)になっており、SFP内であっても溶融を起こす可能性は低い。
一方で、使用済みMOXは、二酸化ウラン燃料の場合と同等にまで冷却するには
100年近くを要する。故に乾式キャスク貯蔵は行わない。(日本に35年近く商用で先行する合衆国では事例がない)
乾式キャスクに移した分だけ新たに使用済み核燃料を発生させることになり、(簡単な論理学的に)
乾式キャスク貯蔵により安全性が向上すると言うことはあり得ない。むしろ危険は増大する。
さらに使用済みMOXや高燃焼度SFといった乾式キャスク貯蔵が出来ないまたは難しいSFが増えることによって、むしろ
危険性は増す。
4)核燃料サイクルの現状とプルサーマルの矛盾
日本国内で唯一稼働していた東海再処理施設は運用廃止済みであり、すでにデコミッションが始まっている。
フランスへの委託再処理はすでに契約が終わっており今後のSF搬出はない。英国は再処理工場を事故により廃止し、再処理事業そのものを取りやめた。六ヶ所村再処理工場は完成のめどが立っておらず、毎年完成予定が延期されている。従って、再処理に出荷することは出来ない。
MOXの価格は、二酸化ウラン燃料の10倍であり、仮に六カ所村再処理工場が運開すると、さらに価格は上昇する。結果、燃料費増大を嫌い、各電力はMOX装荷量をおおきく減らしている。
このため、もともとPu在庫量の少ない四国電力や九州電力の場合は、フランス在庫分に限ればMOX燃料あと1〜2体分のPuを消費すると責任分を全量消費し尽くす(英国には、それぞれ数十体分とさらに多くのPuの在庫があるが、英国の都合と契約上の問題でMOX化の目処が立たない)が、関西電力、東京電力、中部電力は、二桁多いPu在庫を抱えており、発電コストへの影響を避けるとMOX燃料を消費しきれない。
経産省は、「事業者間の連携・協力を促す」として、Pu在庫のない電力に東電、関電、中部電のMOX在庫を押しつける方針を示しているが、電事連は、今のところ拒否している。これまでの経緯から、経産はごり押しするだろう。
結果、四電は、責任分以外にもかかわらず価格10倍の高くて安全性の低いMOX利用を強制される恐れがある。使用済みMOXは100年経たないとSFPから取り出せず、100年後にどうするかは技術的に未解決である。100年後以降もSFPで貯蔵出来るか分からないし、乾式キャスク貯蔵も出来るか分からない。使用済みMOXは、再処理技術も無い。(増殖炉サイクルならば、計算上はウランの資源量を80倍効率的に使うことが出来、ウランの資源寿命が80年から6400年へと伸びて事実上無尽蔵となり、結果として燃料費はただ同然となるというのが核燃料サイクル開発を行ってきた理由である。仏英日などの核燃料サイクル政策をとる原子力開発国は、高速増殖炉の開発に事実上失敗し、軽水炉サイクルを行っている。しかし、商用軽水炉の増殖率・転換比※は極めて低く、ウラン資源寿命はせいぜい1割しか延びない。また、核燃料再処理も当初見込まれたより遙かに難しく高コストである。最大限見積もって、80年の資源寿命を88年に伸ばすことに対して価格が4~数十倍と高く、安全性、炉心での挙動、取り扱い、SFの性質すべてで劣るMOX燃料の利用は、経済的にも資源論的にも完全に無意味である)
(※増殖率・転換比:核燃料である235Uを1消費したときにどれだけ239Puを作り出せるかという数値。FBRでは1.1~1.2であって、235Uを1燃やすと1.1~1.2の239Puが生じる。これを増殖率1.1または1.2と呼ぶ。現実のFBR1基を10年運転すると、10年分の239Puに加えて1年分の239Puが余分に生じ、増殖率1.1である。FBRの運転10年で原子炉二基分の核燃料が得られ、増倍時間10年となる。ATRの場合は、0.7~0.8であり、この場合「転換比」0.7~0.8と呼称する。軽水炉の場合は、転換比0.6~0.7である。現実には自分で6割ほど燃焼してしまうため、転換比は0.3程度であるが転換されたPuのうち発電に使える239Puと241Puのみで評価すると、0.1~0.2程度となる)