早野氏が2019年1月8日に早野氏が文部科学省の記者クラブに貼り出した「見解」には、
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本日1/8,文科省記者クラブに「伊達市民の外部被ばく線量に関する論文についての見解」を貼出いたしました.70年間の累積線量計算を1/3に評価していたという重大な誤りがあったことと,その原因,意図的ではなかったこと,今後の対応,伊達市の方々への陳謝などを記したものです。
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と書かれている。(※参照:”
黒川名誉教授緊急寄稿。疑惑の被ばく線量論文著者、早野氏による「見解」の嘘と作為を正す–HBOL”)
朝日新聞記事における早野氏の回答とは、この中の
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「70年間の累積線量計算を1/3に評価していたという重大な誤りがあったこと」
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についての記者の質問に対する早野氏の回答である。
論文中には、70年間の累積線量として、伊達市で最も線量の高いAエリアに住み続けても70年間の累積線量の中央値は18ミリシーベルトにしかならないと書かれている。これが1/3に過小評価されていたのなら、本当の累積線量は中央値で50ミリシーベルトを超えることになる。
この点についての記者の質問に対して、早野氏が、
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「年平均1ミリシーベルトを超えないレベルに収まると考えている」
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と回答したというのが元の記事が報道していることである。
訂正後の記事では、回答は、
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「避難指示が出されなかった地域では、長期で見れば年1ミリシーベルトを超えないレベルに収まっているはずだ」
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と変えられている。
元の記事では、早野氏は(Aエリアでたとえ累積線量が50 mSvを超えても)年平均では1ミリシーベルトを超えていない(ので大丈夫ですよ)と回答しているのである。
しかし、訂正後の記事では、Aエリアという限定がなくなり、「避難指示が出されなかった地域」とされ、さらに、「長期で見れば年1ミリシーベルトを超えない」という回答として書かれている。この回答は、(今は年あたり1ミリシーベルトを超えているが、)年数がたてば被ばく線量は年1ミリシーベルトを超えなくなりますよという意味である。
記事の訂正前の早野氏の回答は訂正後の早野氏の回答とは明らかに異なっている。
なお、このパラグラフの中の括弧の中の文は、私が回答の意味を明らかにするために付加したものであることをおことわりする。
1月8日の時点では、早野氏が書いた論文は国の放射線審議会で、放射線から国民を防護する基準の議論の参考資料として取り上げられており、学術的ばかりでなく社会的にも重要な意味を持つ論文であった。1月25日の放射線審議会では、この論文は参考論文リストから削除されはしたが、審議会の事務局は「事務局としては、学術的な意義を全否定するものではない」という見解を発表している。
このような重要な論文についての記事が、新聞記事を訂正する場合の正しい手順を踏まず、記事が改竄されていることを見過ごすことはできない。
そのため、筆者は、この問題について朝日新聞のパブリックエディター宛に、この記事の内容とほぼ同じ意見書を送付した。パブリックエディターの方々が、この問題を取り上げ、朝日新聞の犯した過ちを正していただきたいと思っている。
<文/黒川眞一> くろかわしんいち●高エネルギー加速器研究機構名誉教授。1945生まれ。68年東京大学物理学科卒、73年東京大学理学系研究科物理学専攻を単位取得退学。理学博士。高エネルギー物理学研究所(現・高エネルギー加速器研究機構)助手、同助教授、同教授を経て、2009年に高エネルギー加速器研究機構を定年退職。11年にヨーロッパ物理学会より Rolf Wideroe賞、2012年に中華人民共和国科学院国際科技合作奨受賞など。専門は加速器物理学