虚飾だらけの「アベノミクス」。果実を得られるのは「身内だけ」という現実

安倍首相

首相官邸ホームページより

 1月28日の国会で行われた安倍晋三総理の施政方針演説。ニュース番組では部分的に切り取られることが多く、なんだか素敵なことを言っているように聞こえるため、多くの国民が「安倍さんは頑張ってる!」と思ってしまうのですが、こうして全文を検証してみると、安倍晋三総理がどれだけメチャクチャなことを言っているのかがよく分かるようになります。こんな検証をすると、すぐに「ネトウヨ病」をこじらせた人たちが「オマエが安倍さんのことを嫌いだから揚げ足を取ろうとしているんだ」と言ってくるのですが、そうではありません。そのデータが正しいのかどうかを検証することが大切なのです。  前回は、プーチンの前では媚びへつらっていたのに、突如挑発的な御製を引用した衝撃的な箇所と、「経済成長」についてのまやかしについて触れましたが、今回は「悪化し続けてきた子供の相対的貧困率も、初めて減少に転じ、大幅に改善した」というところから検証を始めたいと思います。 ※※※※※※※※※※※※※※※  児童扶養手当の増額、給付型奨学金の創設を進める中で、ひとり親家庭の大学進学率は24%から42%に上昇し、悪化を続けてきた子どもの相対的貧困率も、初めて減少に転じ、大幅に改善しました。平成5年以来、一貫して増加していた現役世代の生活保護世帯も、政権交代後、8万世帯、減少いたしました。5年間で53万人分の保育の受け皿を整備した結果、昨年、待機児童は6000人減少し、10年ぶりに2万人を下回りました。子育て世代の女性就業率は7ポイント上昇し、新たに200万人の女性が就業しました。成長の果実をしっかりと分配に回すことで、次なる成長につながっていく。「成長と分配の好循環」によって、アベノミクスは今なお、進化を続けています。 ※※※※※※※※※※※※※※※  子供の相対的貧困率は、厚生労働省が出している「平成28年国民生活基礎調査の概況」(出典:厚労省)から知ることができます。
貧困率の年次推移

貧困率の年次推移。厚生労働省平成28年国民生活基礎調査の概況より

 貧困率の年次推移というグラフ(※上図)では、昭和60年(1985年)以来、ジワジワと上昇していることがよくわかります。1985年と言えば、当時の総理大臣は中曽根康弘さんなので、中曽根→竹下→宇野→海部→宮澤→細川→羽田→村山→橋本→小渕→森→小泉→安倍→福田→麻生→鳩山→菅→野田→安倍と、18人も総理大臣がコロコロ変わったけれど、相対性貧困率がジワジワと上昇を続けていたということになります。安倍晋三総理はアベノミクスの3本の矢で、見事、相対的貧困率の悪化を止め、大幅に改善させたと言っているのですが、改めて先程の資料から「貧困率の年次推移」という図を見てみることにしましょう。
貧困率の年次推移

貧困率の年次推移。厚生労働省平成28年国民生活基礎調査の概況より

 この調査は3年ごとに行われているため、前回は2015年に最新のデータが出ているのですが、その前の2012年が16.1%なので、改善しているかどうかで言えば0.4ポイント改善しています。相対的貧困率はジワジワと伸びているのですが、平成15年(2003年)には一度、0.4ポイント改善しています。相対的貧困率が改善するのが初めてではないことに加え、たったの0.4ポイントで「大幅に改善した」とは、一体、どういう理屈なのでしょうか。たとえ0.4ポイントでも改善していることには違いないのでしょうが、「大幅に改善した」と言ってしまうのは盛り過ぎです。これから公開される最新データでは劇的な改善が見られるということでしょうか。
被保護世帯数、被保護人員、保護率の年次推移

被保護世帯数、被保護人員、保護率の年次推移(厚労省資料)

 続いて、「平成5年(2003年)から一貫して増えてきた生活保護世帯が政権交代後、8万世帯減少した」というデータなのですが、厚生労働省が平成29年5月11日に、社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会(第1回)で出している「生活保護制度の現状について」(出典:厚労省)というデータによれば、平成26年度(2014年)の確報値では161万2340世帯、平成29年2月の速報値では163万8944世帯ということになり、むしろ2万6604世帯増えています。生活保護世帯そのものは増えているのですが、それでも「8万世帯減少した」と言っているのにはカラクリがあります。改めて、安倍晋三総理が何と言っていたのかを確認してみましょう。 ※※※※※※※※※※※※※※※ 「平成5年以来、一貫して増加していた現役世代の生活保護世帯も、政権交代後、8万世帯、減少しました」 ※※※※※※※※※※※※※※※  ポイントとなるのは「現役世代の」生活保護世代です。現役世代とは18歳から65歳までの働ける年齢の人のこと。つまり、高齢者の生活保護率は異常に伸びているけれど、安倍晋三総理は増えている部分をガン無視で、減っている部分だけを指して「アベノミクスのおかげ」だと言っているのです。これがどれだけおかしなことなのか、同じく「生活保護制度の現状について」というデータを見れば、一目瞭然だと思います。
年齢階層別被 保護人員の年次推移

年齢階層別被 保護人員の年次推移(厚労省)

 確かに、18歳から65歳までの生活保護の受給世帯は減っていると言えば減っているのですが、このグラフを見て、「生活保護世帯が減ってて素晴らしい!」と思う人がどれだけいるでしょうか。そんなことよりも65歳以上の生活保護世帯の激増ぶりがヤバすぎて、早急に手を打たないと、死んでしまう高齢者がいっぱい出てしまうのではないかと心配になります。しかし、安倍晋三総理は激増する65歳以上の生活保護世帯をなかったことにして、「生活保護世帯は減っている」と言い放ったのです。
次のページ 
待機児童が減ったように見せる「からくり」
1
2
3
4