そんな物流の「温度」による荷物事故で記憶に新しいのが、例の「おせち」に関する騒動だ。
昨年末、物流大手「ヤマト運輸」が、福岡県の食品製造業者がインターネットで販売した「要冷凍」のおせち1,268個を北海道へ運ぶ際、中継地点の埼玉県から誤って「冷蔵」で運搬したことで、道内の顧客に届けられなくなった。(参照:
産経新聞)
今回、ツイッターでのアンケートに応じてくれた冷蔵冷凍車ドライバー71名に、その原因を推察してもらったところ、以下のような回答や意見を得た。
・伝達ミスや勘違いなどのヒューマンエラー。配車側とドライバー側の両方の確認が取れていれば防げたミス。
・冷凍車に乗るドライバーは出発前、温度設定の指示を必ず確認する。中継地点で指示された温度にミスがあったのでは?
・おせちは年1回であるうえ、「チルドもの(0度~5度以下での保存・管理が必要な食品)」や「冷凍もの」など色々なケースがあり、その辺の伝達にミスがあったのかもしれない。
・冬の時期だからと、ドライ車(常温のトラック)で強引に運搬したのかもしれない(極寒地では短時間ならたまにある)。
・荷降ろし時、温度管理の厳しい倉庫では、クルマの庫内温度を測られたり、直接荷物の温度を測られたりすることがある。今回の件は、中継地点でのこうした検査で分かったことなのだろう。
・冷蔵・冷凍配送が本職ではない大手などには、冷凍倉庫などの設備が充分にないことがある。そこに繁忙期、大量の「要冷蔵・冷凍」が来れば、設備的に難しいことは容易く想像できる。
・大手運送業者は、法律遵守のため自社便を減らしドライバーに休暇を取らせる。その間「傭車(下請けや個人事業主の業者)」で賄うのだが、その傭車がトラブルを起こすことも考えられる。人手不足による、トラック確保の難しさが出てしまったのでは?
・物流は「物」を相手にする仕事だが、その先には「人」がいるということを忘れずにいれば確認を怠る事態は回避出来ると信じている。
などなど、だ。
荷台の温度が、運転席からも確認・調節可能であることに鑑みると、やはり今回の「おせち騒動」は、彼らの多くが推察するように、
中継地点での温度の伝達ミスである可能性が高い。
聞けば、こうした温度設定によるトラブルは「よく起きる」、「起きてしまう環境にある」という。
しかし、業界全体が深刻な人手不足であるとはいえ、こうして指定された温度で配達されないということは、決して許されることではなく、今後、業界総出で改善を図る必要があることは間違いない。
が、今回の騒動においては、届けられなかった商品が、本来数日間、日持ちする正月料理の「おせち」であり、かつ、凍ったまま食べるものでもないことを考えると、本当に業者は1,268個の料理を一斉かつ一方的に配達中止にする必要があったのだろうか、という思いが個人的にはどうしても拭えない。ちなみに、福岡県から埼玉県までの輸送時は、指定通り「冷凍」だったという。
昨今、どんな業界においても、トラブルの内容やその度合を精査せずに、供給側のミスや、わずかな時間超過をすぐに「サービスの完全停止」に直結させてしまう傾向にあるが、それは果たして「真のサービス」と言えるのだろうか。
時々、日本の「もったいない精神」が分からなくなる。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
@AikiHashimoto