現在のやり方を続ける限り、待ち受けるのはディストピア<片山杜秀氏>

ディストピアイメージ

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 間もなく平成が終わり、次の時代が始まる。1月22日発売の『月刊日本』2月号では、第三特集で「平成の光と影」として、その何反して決して「平らかに成る」とはならなかった30年を振り返っている。  冷戦終結と55年体制の崩壊で混乱・混迷・迷走した政治は、安倍政権のもとで議会政治の劣化、対米従属強化が決定的となった。  経済はバブル崩壊後に、「失われた30年」に突入し、新自由主義政策によって格差が拡大した。  少子高齢化が進む中で、阪神淡路大震災、東日本大震災など多くの自然災害に見舞われるとともに、オウム事件に象徴されるテロに遭遇するなど、社会も不安定化の一途を辿った。  これらの平成の問題について、次の時代に解決すべく、「平成という時代」を問い直すという意図をもって企画された本特集から、今回は「平成の精神史を読み解く」と題された慶應義塾大学教授である片山杜秀氏へのインタビューを転載し、ここに紹介したいと思う。

長期ヴィジョンを失った平成時代

―― 2019年5月で平成が終わります。片山さんは平成時代を論じた平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム(幻冬舎新書)を出版されましたが、平成とはどのような時代だったと考えていますか。
平成精神史

片山杜秀氏の著書『平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム』(幻冬舎新書)

片山:平成は元号の漢字の意味合いや時代の長さから考えると、大正時代に似ていると思います。明治が「明らかに治める」、昭和が「昭らかに和する」という動詞的なニュアンスを持っているのに対して、大正は「大いに正しい」という形容詞的なニュアンスで、動きを感じにくい。平成も「平らかに成る」として「成る」という動詞が使われていますが、「成る」という漢字の意味から考えても、すでに動きが終わってしまったというニュアンスを含んでいます。  また、大正と平成はそれぞれ、明治と昭和という長く激動の時代の後に訪れました。明治時代には日本は日清戦争・日露戦争を戦い、世界の大国と認められるまでに至りました。そのため、大正時代になると、人々は苦労の末に一つの安定を達成したという思いを抱いたと思います。  昭和時代の日本も、戦前は政治力と軍事力に頼り、戦後は経済力に頼ることで、坂を駆け上がっていきました。敗戦を経験したとはいえ、戦前も戦後も猛烈な右肩上がりの時代だったという点では一貫しています。その後に平成が訪れると、人々は大正時代と同じように、一つの安定を達成したと思ったはずです。  もっとも、大正と平成には違いもあります。大正半ばの日本は第一次世界大戦のため、戦争特需となりました。戦争によってヨーロッパの工業生産量が不足するようになったので、日本はどんどん設備投資を行い、輸出を行っていったのです。  しかし、資本家とはいつの時代も愚かなものだと思いますが、彼らは戦争末期になっても設備投資をやめませんでした。その結果、戦後にヨーロッパの生産が回復すると、日本の輸出は頭打ちとなります。日本は工場を休ませたり、労働者を解雇しなければならなくなり、不況に沈んでいきました。  とはいえ、この頃の日本はまだその先の未来を描くことができました。中国が辛亥革命によって混乱状況にあったので、軍事力を背景に中国市場を独占できれば、行き詰まりを解消できるのではないかと見られていたのです。後の歴史を知っている我々からすれば、これは敗戦を招く道筋です。しかし、当時の人々からすれば、一つのヴィジョンであったことも事実です。  他方、平成の日本にはこうしたヴィジョンは見当たりません。現在の日本社会は格差が拡大しており、人口減少にも歯止めがかかりません。2018年の人口減少数は40万人を超え、過去最大となりました。このままでは福祉サービスを維持していくことも困難です。  これに対して、安倍内閣は日銀の金融緩和をはじめ刹那主義的な延命治療を続け、とにかく株が上がっているから大丈夫だと言い張っています。安倍内閣を批判する野党にしても、それでは他にうまくいく方法があるのかと批判されると、反論できずに押し黙ってしまいます。しかし、2018年末には株価は短期ですが2万円を割りました。もはやアベノミクスで日本が豊かになるといったごまかしは通用しなくなっており、それが平成の終わりと重なっているところに因縁めいたものを感じます。
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「棄民」を進める安倍内閣
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月刊日本2019年2月号

特集1【冒頭解散を撃て】
特集2【トランプに捻じ曲げられた防衛大綱】
特集3【平成の光と影】
新春特別対談【世襲政治を打破する】
新春特別寄稿【女川原発を津波被害から救った男 平井弥之助に学ぶ】
新春特別レポート【子宮頸がんワクチン、日本撤退へ】