なぜベンチャーはブラック企業になりやすいのか? 起業家にとっての「労務管理」

ベンチャーに就職する前にすべきこと

――ベンチャー企業やスタートアップに入ると「成長」するぞ、と言われるわけです。成長っていうのはお金じゃなくて、人生を捧げて事業が伸びれば「成長」できるぞ、と。私はどうもそういうのが苦手で……。 上西:でも、社長は儲けてるんですよね(笑)。お金じゃないんだ、って言っている人が、本人は儲けてて、事業のことになると一円を無駄にするな、みたいなことを言っていたりして、おかしいですよね。 ――夢ばかり膨らんでしまうと、過重労働になってしまったり、仕事とプライベートが一体化していくことが正しいのだ、というような思考になってしまったり。創業者のビジョンに引っ張られてしまう。 上西:ただ、それも心から信じていると言うより、信じさせているところがあると思うんですよ。結局、「お金じゃなくて成長なんだ!」って言って、信じてくれたら都合がいいわけじゃないですか。  私の授業に、ある企業の人事の方をゲストに迎えたことがあるんですよ。企業の方を授業でご紹介しようという話があって、お受けしたんですけども「うちは女性の育児休業復帰率はこんなに高いんです」みたいな話をされたんです。学生は「ほー」となるじゃないですか(笑)。  それでね、次の週に「育児休業復帰率っていうのはね、辞めた人は分母に入らないんだよ、だから、辞めないで続けられる見込みがある人だけが退職しないで育児休業取って、それでも復帰できないというのはよほどのことだから、大抵の企業が80%とか90%とかあたりまえなんですよ。それはあなたが絶対に復帰できるという意味ではないんだよ」という話をしたんですよ。(参照:「復職率(復帰率)が高くても、女性が働き続けられているとは限らないことに注意!」−−上西充子)  いいことしか言わない人がこの前来たから、すごいって皆さん思ったかもしれないけど、社会勉強ですし、あのとき「すごい!」と思った人は、考え直してくれと(笑)。 ――企業の側は、自覚的なんですね。 上西:信じているというよりは、騙しているんですよね。例えば、採用情報を見ると、給与が25万だ、30万だと書いてあるところでも、固定残業代込だということを表示していなかったりする例もあるわけですよね。それをごまかしている。  労働法を知らなくて間違えている例もあるけれども、労働法とか気にさせないように誘導して、文句があれば「お前は金のために働いているのか?」と言って、労働条件とか福利厚生とかを気にさせないようにする、ということを確信犯的にやっているところも多いと思うんです。
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「楽しくてもブラック」な会社はある
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