日韓の主張と映像を見る限り、今回の事態は、
友好国同士の軍隊による相互誤解をもとにしたインシデントで、“イルミネーター照射がなされていなければ”、
謝罪など相互に必要なく、実務者協議で解決し、今後の教訓とするだけのものです。
ところが、日本で連日報じられるものは、
事実に基づかない情報を扇動的に垂れ流し、市民を排外主義と主戦論に誘導する極めて危険なものです。
それらの危険な情報について下記に列挙し、解説します。
1) 韓国の電探照射に関する説明は二転三転している。
完全に嘘。典型的なデマゴギー。
韓国側は、電探照射について日本側が主張する“射撃管制電探“FCは定義がおかしく、射撃統制・射撃追跡電探である
STIR-180(Xバンド、Kバンド射撃電探兼イルミネーター)による電波照射は行っていないと一貫して主張している。韓国側が使っていた”射撃管制電探“はMW-08(Cバンド三次元電探)であると主張している。
韓国国防部による2018/12/24の定例ブリーフィング後の質疑応答を見ると詳しく分かる。
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国防部による映像と書き出し
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“KJCLUB – 国防省定例ブリーフィング質疑応答” 有志による翻訳と原語書き出し(機械翻訳と照合して使用)
日本人ヘイターによるこ汚い暴言がぶら下がっており見ていて恥ずかしいほどだ。
2) 当時、海は穏やかであり、韓国側の海が荒れていたという説明は虚偽。
韓国国防部12月24日の質疑応答のつまみ食いと切り取りによる虚偽。
●合同参謀本部作戦2処長による質疑応答
Q:遭難船舶を捜索する際に射撃統制電探(STIR-180?)を使うことがあるのか?
A:日本側の主張する射撃追跡電探(おそらくイルミネーター)と射撃統制電探は異なる。普通は対艦電探(MW-08?)を運用し、射撃統制電探(STIR-180?)は、波が高いなど、悪天候のときに捜索電探とともに用いる。
韓国側は、荒天の場合STIR-180を捜索用に使うことがあると主張しているのみ。これを日本側は切り取っている。
また、日本側公開映像のテロップである「風浪階級1m(さざ波が立つ程度)」はおそらく誤り。波高1m(韓国側主張1.5m)で風浪階級3(韓国側主張に基づくと4)となる。これは悪天候とは言えないが、穏やかとも言えない。
3) 射撃管制電探(STIR-180)がP-1を指向していた。発砲の一歩手前だ。
イルミネーター照射と混同した虚偽。
●合同参謀本部作戦2処長による応答
A:広開土大王は、STIR-180を光学モードで電波を放射せずに遭難船捜索に用いていた。そこへP-1が低空接近してきたため、光学モード(EOカメラ)で当該機を監視した。電波放射はしていない。
A:対水上、対空電探としてはMW-08を用いており、STIR-180では電波放射していない。
なお、
STIR-180は指揮部の許可を受けないと作動させることはできない。(参照:
“日本「味方に銃撃つか」vs韓国「射撃用レーダー撃たなかった」“中央日報 2018/12/24 7:43)
4) 広開土大王と参峰号は、北朝鮮漁船とイカの洋上取引を行っていた。南北共同によるEEZ侵害行為だ、とする「瀬取り」(洋上において船から船へ船荷を積み替えること)説
空想の産物で、全く意味がない。典型的な
市民の敵愾心を煽るためのデマゴギー。
証拠が一切提示されておらず、空想の産物でしか無い。
そもそも、軍艦や巡視船は輸送船でなくペイロードが極めて小さい。具体例として大日本帝国海軍が日本の貧弱な輸送、海上護衛能力のために苦肉の策として多用した“ねずみ輸送“(駆逐艦による補給物資輸送)は輸送船の100分の1未満の効率しか無かった。
例えば5千トンの輸送船なら5千トンの物資を運べるが、2500トンの駆逐艦二隻で運べた物資は30トン程度。
また、軍艦に魚介類の洋上取引に使う生簀や冷凍設備はない。イカの場合は大型の生簀が必須であろう。
軍艦や巡視艇は乾舷が高く、小型漁船と洋上取引するための荷役施設(デリックなど)が必須となるが、見当たらない。
そもそも、たかが数十万円から数百万円程度のイカを、
軍艦や巡視船が二隻も出向いて取引しても燃料代にすらならない。
5) 広開土大王は、国旗、軍艦旗を示していない海賊船だ。
映像の解像度が低いことを利用した嘘。典型的な市民の敵愾心を煽るためのデマゴギー。
公開されている写真を見ると、外洋航行中は
メインマストに太極旗を掲げている。解像度の低いP-1からの映像でも、低速のためかマストに巻き付いている太極旗と思われるものが、掲揚位置に見られる。
外洋航行中の広開土大王 photo by Republic of Korea Armed Forces via flickr(CC BY-SA 2.0)
6) 南北融和による日本への侵略行為だ。
いわゆる真っ赤な嘘。
半島デタントを快く思わない人間による典型的な市民の敵愾心を煽るためのデマゴギー。十分な証拠を提示した上で主張されたい。
南北融和によるデタントの動きは昨年9月来急速に進みつつあり、日本政府はその事実に反発している。
しかし、実際には両国、両軍の緊張状態は継続しており、相互に緊張度の高い休戦国同士の関係であることは変わりない。
遭難漁船の生存者と遺体について、本人の意志を確認の上で北朝鮮に送り返したことがデタントを象徴しているが、脱北者や工作船だった場合も考えられ、
極めてデリケートで危険を含むSAR活動であったことは想像に難くない。
7) 日本のEEZ内で韓国艦船が行動するなど許せない。国際法違反だ。
完全に誤った主張。
まず、日韓両政府ともに当該事態の発生した座標を発表していない。当該水域は、日本側EEZ、日韓共同開発水域、韓国側EEZが存在しており、座標を公表しないことと関係がある可能性がある。
EEZは排他的経済水域であるが、公海である。商船、軍艦、巡視船は航行と行動の自由を持っている。漁労や資源採掘、資源探査については沿岸国の主権が及び、コーストガード(海上保安庁や海上警察)が取締を行う。今回はSAR活動であり、漁労や資源探査・発掘は関係ない。要するにEEZであるか否かは全く無関係。
難破船がどこにいようとそれは不幸な難破船であり、SAR活動は一切阻害され得ない。日韓両国はSAR条約批准国であり、日韓SAR協定も締結から28年目となる。
韓国側がSAR活動について日本側に通告しなかったことについては、協定では「必要があれば」という但し書きがあり、協定違反とは言えない。