この答弁を行う際、山越労働基準局長は、映像で見ると、こそこそとした様子に見える。質問に答えたくない様子がありありとわかる。
これが加藤勝信厚生労働大臣(当時)になると、様子が違う。加藤大臣の答弁は、落ち着いて見える。そして誠実に答えているように見える。そうでありながら、加藤大臣はより巧妙に論点ずらしを行う。そのため、論点ずらしが行われていることがわかりにくい。相手を騙す意図を含んでいるという点で、より悪質だ。
具体的に見てみよう。先ほどと同じ高プロのニーズに関する労働者へのヒアリングについて、2018年1月31日に参議院予算委員会で加藤厚生労働大臣が浜野喜史議員(当時民進党。現在は国民民主党)の質問に答える場面だ。まずは解説なしで見ていただきたい。加藤大臣の答弁は、どう聞こえるだろうか。(※
「国会パブリックビューイング 第1話 働き方改革-高プロ危険編-」14分47秒~))
浜野議員は、「
記録はあるのか」と三度、尋ねている。加藤大臣の答弁は、どう聞こえただろうか。記録は残していない、と聞こえなかっただろうか。
記録は残していないと受け取れる答弁を加藤大臣は行っている。しかしよく聞くと、記録を残しているか、残していないか、加藤大臣はその明言を巧妙に避けているのだ。文字起こしでご確認いただきたい。
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【加藤勝信厚生労働大臣】
また、高度で専門的な職種、これはまだ制度ございませんけれども、私もなん…いろいろお話を聞く中で、その方は、自分はプロフェッショナルとして自分のペースで仕事をしていきたいんだと、そういった是非働き方をつくってほしいと、こういう御要望をいただきました。
例えば、研究職の中には、1日4時間から5時間の研究を10日間やるよりは、例えば2日間集中した方が、非常に効率的にものが取り組める、こういった声を把握していたところでありまして、そうした、まさに働く方、そうした自分の状況に応じて、あるいは自分のやり方で働きたい、こういったことに対応する意味において、これ全員にこの働き方を強制するわけではなくて、そういう希望をする方にそうした働き方ができる、まさに多様な働き方が選択できる、こういうことで今、議論を進めているところであります。
【浜野喜史議員(当時民進党。以下同)】
御説明いただきましたけれども、現・裁量労働制対象の方々からも意見があったと。そして、新設される高度プロフェッショナル制度につきましても、御意見があったということですけれども、
そういう意見があったというような記録ですね、これは残っているんでしょうか。御説明願います。
【加藤勝信厚生労働大臣】
今、私がそうしたところへ、むか…あの、企業等を訪問した中でお聞かせいただいた、そうした意見、あの、声でございます。
【浜野喜史議員】
その記録は、残っているんでしょうか。
【加藤勝信厚生労働大臣】
そこでは、その思うことを自由に言って欲しいということでお聞かせいただいたお話でございますから、
記録を残す、あるいは公表するということを前提にお話をされたものではございません。
【浜野喜史議員】
私は厚労大臣を疑うわけじゃありませんけれども、
記録ないわけですね。もう一度、確認させてください。
【加藤勝信厚生労働大臣】
公表するという意味でお聞かせをいただいたわけではありませんが、ただ、やはりそうしたフランクな話を聞かせていただくということは、私は大事なことではないかと思います。
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「記録を残す、あるいは公表するということを前提にお話をされたものではございません」「公表するという意味でお聞かせをいただいたわけではありません」と、あたかも記録を残していないかのような答弁をしているが、「記録を残すことを前提にお話をされたものではない」ということと、「記録がない」ということは同じではない。実は加藤大臣は、記録があるとも、ないとも、語っていないのだ。
記録の有無に言及せずに、けれども、あたかも記録はないかのように誤認を誘う答弁を行っているのだ。
ここでの浜野議員の質問は極めてシンプルなものだ。記録は残っているのか、それだけを端的に聞いている。三度も繰り返し聞いている。にもかかわらず、加藤大臣は、記録がないかのような答弁を行い、実際には、記録があるともないとも答弁していない。
このような実例を見れば、「野党の問い方が悪い」「もう一度、聞き方を変えて問い直せばよいだけ」といった批判がいかに的外れか、わかるだろう。とにかく答えない、という姿勢で加藤大臣が答弁に臨んでいる中で、繰り返し尋ねても、時間が空費されるばかりなのだ。