コスタリカの「再生可能エネルギー発電100%」にはどれだけ意味があるのか

消費エネルギーの過半が化石燃料頼みなのは周知の事実

渋滞

首都サンホセおよびその周辺都市では、車両数と輸送量の増加に伴って渋滞が慢性化。化石燃料消費増大の最大要因となっている

 国内で消費されているエネルギーの約6割が運輸部門であり、そのほぼ100%を化石燃料に頼っている。コスタリカ政府や環境エネルギー省自身はそのことを強く意識しており、その事実を隠してはいない。  むしろ、その情報を積極的に外部と共有している。筆者自身、毎年2回企画しているコスタリカツアー(次回は2019年2月4日出発予定)で環境エネルギー省などを訪れた時には、毎度のようにそのことについてレクチャーを受けている。単純に、再エネ100%発電のように、大々的にメディアベースで広報していないだけの話だ。 「広報していない」ということは「隠している」ということと同義ではないか、とする向きもあるかもしれない。しかし、コスタリカは日本のような「行政情報鎖国」とは違う。公的な情報には誰でもアクセスできるし、これも拙稿「モリカケ事件でずさんな公文書管理が発覚した日本は、コスタリカの国立公文書館に学べ」「モリカケ事件でずさんな会計検査が発覚した日本は、コスタリカの会計検査院に学べ」で紹介してきたように、むしろ情報を持つ公的機関は市民が公的情報を活用することを積極的に推奨している。黒塗りされた「海苔弁」文書ばかりしか出てこない日本の情報公開制度とは訳が違う。  確かに、一般市民レベルでその事実がどこまで周知されているかというと、「再生エネルギーだけで発電している」という事実と比べれば、まだまだ知られていないだろう。しかし、運輸部門由来の化石燃料の大量消費が問題になっていることは、広く意識されている。その影響は環境問題だけでなく、年々ひどくなる首都圏の慢性的な渋滞や、気管支炎の症例増大などの健康問題にも表れてきているからだ。  

「独立200周年」の2021年に向けて脱炭素化のロードマップを出してくる!?

持続可能性

サンホセ中心部の歩行者天国に掲げられた、首都圏の電力を風力で供給する電力会社のバナー。“SOSTENIBILIDAD”(持続可能性)と“CARBONO NEUTRAL”(カーボン・ニュートラル)はもはやキーワード化している

 増大する車両数と輸送量の増大による炭素排出量の増大に対する施策は、有効というには程遠い状態が続いてきた。その具体的な対策は、首都圏に進入する車をナンバープレートで日によって制限するなどであり、小手先にとどまっている感がある。この問題の解決が鍵であることは、学術セクターや市民セクターでも意識され始めている。  11月29日、コスタリカ大学において「持続可能な交通」というテーマのシンポジウムが開かれ、筆者も参加してきた。  司会は主催者である大学の学際的有志グループ代表の教授、パネラーはバス会社や気候変動問題関係者、ベンチャー企業の技術者など、多様なバックグラウンドから、環境的、経済的、社会的に持続可能な交通についての議論が交わされた。国内でも輸送部門をどうにかしないといけないという意識は確実に高いレベルで存在しており、その対策も業界横断的に考えようという旺盛な意欲を感じた。  とはいえ、現時点においては、コスタリカ政府は輸送部門の化石燃料消費量増大に関して「その勢いを止めることは短期的には困難である」という認識でほぼ一致している印象を受ける。    政府が脱化石化への具体的な長期的ロードマップを策定したという話は、少なくとも筆者は聞いていない。が、増大する排出炭素量を減少に転じさせる目標年度に関しては、環境エネルギー省は2030年と明確に打ち出している。  おそらく、近いうちに具体的なロードマップを出してくるだろう。コスタリカの政治的年度において、2021年は「独立200周年」という意味で非常に大事な区切りを迎えるからだ。  大統領府は、今年5月の現大統領就任時からひたすら「200周年」を意識した広報戦略を取ってきた。これまた拙稿「中米で最も豊かな国となった、『丸腰国家』コスタリカ。次の戦略は『持続可能国家』」で指摘したように、大統領は、4年間の任期における最大の政治的課題のひとつに「脱炭素化社会への取り組み」を挙げている。  これまでのコスタリカ政府による広報戦略のパターンから考えると、独立200周年を迎える段階、もしくはそれ以前に何らかの広報可能な政策パッケージを打ち出してくるのではないかと筆者は予測している。
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再生可能エネルギー発電率100%の意義
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