これらの問題点を踏まえた上で、上西教授は改定案を提案した。
●苦情処理については、問13の(3)を除外し、(4)を(3)として、(1)(2)(3)の3つとする。
●満足度については、問17の(1)だけを独立して問う形とし、「とても満足している」「満足している」「どちらとも言えない」「不満である」「とても不満である」の5択であるのを改めて、先行のJILPT調査のQ29にあわせて、「満足」「やや満足」「やや不満」「不満」の4択とする。
●問13の(3)にあった設問と、問17の(2)および(3)にあった設問を、それぞれ独立させた上であわせた1つの設問とし、すべての回答者に問う形とする。例えば下記の通り。
問★ あなたの現在の働き方について、あてはまるものにすべて〇をつけてください【複数回答可】
1 効率的に働くことで、労働時間を減らすことができている
2 時間にとらわれず柔軟に働くことで、ワークライフバランスが確保できている
3 仕事の裁量が与えられることで、メリハリのある仕事ができている
4 自分の能力を発揮しやすい
5 能力や仕事の成果に応じた処遇となっている
6 仕事に裁量がない(又は小さい)
7 当初決まっていた業務でない業務が命じられる
8 業務量が過大である
9 業務の期限設定が短い
10 みなし労働時間の設定が不適切である
11 労働時間が長い
12 休暇が取りにくい
13 賃金などの処遇が悪い
14 人事評価が不適切である
また、山井議員からは「健康状態についての質問事項で、『1年前と比べて、健康状態はどうですか?』という質問はあるのに、『裁量労働制適用前と後で比較して健康状態はどうか?』という質問がないのはおかしい」というもっともな指摘が飛び出した。1年以上前から裁量労働制を適用している人やずっと裁量労働制で働いている人に「1年前から」の変化を聞いても無意味なのは子供でもわかることだ。
さらに、長尾議員からは「なぜ『制度を見直すべき』と回答した人に、その見直しの内容を問う質問には『その他』の記述式回答があるのに、裁量労働制が適用されていることへの不満を問う設問には記述式回答欄がないのか?」という疑問も飛び出した。
これらの疑問・提案に対して、厚生労働省の労働条件政策課長の黒沢朗氏は「調査票案は検討会構成員の先生方からも異論が出なかったものでありますので、事務局側から改定をお願いすることはできかねます」という回答を繰り返した。
そもそも、
前回記事でもお伝えしたように、この検討会において、第1回では小島茂構成員が政策誘導的な調査はやってはならないと強くくぎをさし、第2回では小倉一哉構成員が、ここも政策誘導的な検討会として利用される可能性に対して怒りを表明している。第3回では座長にも事務局は必要な文書を渡していなかったほどだ。にも関わらず、上西教授らの指摘に対して、この回答である。
山井議員からの質問については、「裁量労働制適用のタイミングは人によって異なる上に、検討会の構成員の先生方から、以前のことを覚えていられるのも一年前くらいまでだろうという声があったので、1年前にした」という回答が。
いくらなんでも自分の身体のことなので、数年前から体調が悪化したとか、裁量労働制適用前後で労働時間がどれだけ変わったかなどはわかるだろう。
また、このヒアリングでは、以前当サイトでも指摘した、制度濫用に繋がるような優良誤認表現に満ちた高プロ制リーフレットの悪質さ(参照:
厚労省による高プロ説明文書、その杜撰な中身に労働弁護団らが撤回と修正を要求)についても指摘された。しかし、その指摘についても「建議に基づいて法改正時に作成したリーフレットです」と壊れた機械のように繰り返すのみ。リーフレットに「本人の希望に応じた自由な働き方の選択肢を用意します」と書かれているが、リーフレットには「自由な働き方」について具体的な言及が何一つない点について、これも建議の表現か、と指摘されると、突然分厚い資料を取り出してあれこれ繰った上で、何も言えなくなってしまった。
建議にそんな表現はないから当然である。
現在存在し、問題点が指摘されているにもかかわらず、依然として
厚労省のサイトからダウンロードできる点について、ダウンロードできなくするなどの措置を提案されたが、それでもなお「暫定的なものであり、問題点があれば新版ができたら変更する」と繰り返すのみ。
「現場ではすでに誤った解説及びデメリットがきちんと説明されていないバージョンで労使の間の話し合いが進んでしまっているので、現バージョンをなぜ削除しないのか」(上西)という声が飛んだ。
長妻議員は、こうした厚労省担当者の回答に対して、「そもそもこの実態調査をやることになったのは国会審議で安倍総理が『裁量労働制で働く方の労働時間は平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある』と答弁したことが発端です。だからきちんとしたデータを取ってほしいため、我々野党側が修正点を指摘しているのに、なぜ検討会構成員に伝えられないとおっしゃるんでしょうか」と、疑問の声を投げかけた。
また、山井議員は「悪徳商法の勧誘のようなリーフレットを元に、高プロ制適用の交渉が行われ、『いい働き方だ』と誤認して高プロの適用を承諾した労働者が過労死したらどうするんですか? それを防ぐために、デメリットも説明するリーフレットこそが必要なのではないですか?」とも指摘した。
厚労省は何のために調査を行うのか? この調査票と、厚労省担当者の対応から判断する限り、到底労働者の健康や労働条件の改善などを目指しているようには思えないのだ。
<取材・文/HBO取材班>