米国政府は中国通信大手には情報漏洩など安全上の問題が存在すると懸念している。
しかし、中国通信大手の通信設備は多くの先進国の大手携帯電話事業者で採用実績があり、安全上の問題が存在すれば、すぐに追放されて国際市場から姿を消しているのではないだろうか。
新興国の技術力が低い携帯電話事業者であれば、設計や運用はファーウェイやZTEなどのベンダに丸投げの場合も多いが、日本の大手携帯電話事業者はそうではない。先進国の高い技術力を持つ大手携帯電話事業者の高度なセキュリティを容易に潜り抜けられるとも考えにくい。
また、一部報道で「余計なものが見つかった」などと報じられたが、端末に関しては第三者が何度も分解するなど調査しており、こちらも安全上の問題を示す明確な根拠は出ていない。
一方で、中国の反間諜法や国家情報法などでは企業や個人を含む中国人に情報収集などで必要な協力を義務付けており、これを根拠に中国企業を忌避する判断もある。これはひとつの考え方として尊重されるべきではある。また、予防策として不安があれば避けるという選択肢もあるだろう。
中国通信大手を排除する動きは日米のみならず、ほかの米国の同盟国でも見られる。5Gの本格化を控えて米中の通信分野の覇権争いが激化する中で、この動きは中国を封じ込める政治的な色合いが濃い。
その背景には、米国は中国の覇権奪取に相当な危機感があることが考えられる。外交上の観点から同盟国との連携強化は重要で、国家安全保障は決して無視できない。政府調達で外国製品に注意するのは多くの国でそうであり、また重要インフラに対峙する陣営を入れたくないのも当然だ。対米従属な印象も否めないが、日本政府の決定には一定の理解は示したい。
中国通信大手は国際的に事業を手掛ける企業で、ZTEが受けたような米国政府の制裁を受けない限り、日米やその同盟国で排除が拡大してもすぐに経営が厳しくなることはないだろう。しかし、通信設備や端末の製造規模が縮小する可能性は否定できない。
そして、その結果、日本企業に影響も波及するのは必至だ。というのも、通信設備や端末には多くの日本企業の部品が使われているからだ。中国通信大手を締め出した結果、日本企業を含めた中国通信大手の取引先にも影響が生じる可能性は認識しておきたい。
日本企業の部品を多く利用したファーウェイ製スマホ「Mate 20 Pro」
<取材・文・撮影/田村和輝>
たむらかずてる●国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報に精通。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ