IT調達申合せは特定企業の名指しこそ避けたが、実際にはファーウェイやZTEの排除を念頭に置いているのは言うまでもない。事実、IT調達申合せの公表後に一部の公的機関では公私ともに中国通信大手を避けるよう指示があったようだ。日本政府機関では情報システム、機器、役務の調達先から中国通信大手は外れるが、従来から中国製品には警戒しているため、さほど大きな変化はないだろう。
日本政府の方針を受けて、国内の大手携帯電話事業者も中国通信大手を排除すると報じられた。ただ、誤解されやすいのだが、政府機関内ではスマートフォンなどの端末も排除の対象となるが、大手携帯電話事業者では端末ではなく、主に基地局側の通信設備が排除の対象となるのだ。
NTTドコモは従来から中国通信大手の通信設備を採用していない。ある関係者によると、通信設備で採用するとコアな部分を教えることになり、端末を採用するのとはわけが違うという。また、KDDIは主要な通信設備で中国通信大手の採用はなく、実態としてほぼ採用していないに等しい。各社とも調達方針を定めているが、NTTドコモやKDDIには従来の調達方針でも中国通信大手は入り込めていない。また、新規参入する楽天モバイルネットワークはIT調達申合せの公表前に主な通信設備の調達先を公開していたが、中国通信大手は含まれない。日本政府の決定を受けて大手携帯電話事業者の対応も大きく伝えられたが、元から不採用の各社は従来通りと考えてよいだろう。
基地局に設置されたファーウェイ製の通信設備(右)
一方、ソフトバンクと同系列のWireless City PlanningはファーウェイやZTEの通信設備を広範に採用する。しかし、5Gでは採用しない方針を固め、4Gでも順次排除すると伝えられた。既存の通信設備もいずれは交換が必要となり、そのタイミングで他社製に交換するのではないかと推測している。ソフトバンクは方針転換となるが、重要なインフラを担う企業として、日本政府の方針には従うしかないだろう。また、ソフトバンクは親会社のソフトバンクグループが米国の携帯電話事業者のSprintを所有する。そのため、米国政府が中国通信大手の排除を要請した可能性は高い。米国で円滑に事業を運営するためにも、米国政府の意向に沿う必要があるはずだ。
総務省は5G向け周波数の割当に関する指針を決定し、IT調達申合せに留意するよう文言を加えた。事実上、総務省としても5Gの通信機器からファーウェイやZTEの排除を求めたと解釈できる。
ただ、ZTEはともかくファーウェイは技術力が高い。5Gの導入初期の周波数は3.5GHz帯が世界的な主流と見込まれるが、3.5GHz帯の5Gに対応した商用機器の開発ではファーウェイが最も進んでいると聞いたこともある。そして、中国通信大手であれば北欧などの競合他社よりコストを抑えられる。NTTドコモとKDDIは5Gでも従来通り中国通信大手を採用する計画はなかったと思われるが、ソフトバンク系列は5Gに向けた計画の見直しを強いられそうだ。また、一連の動きを踏まえて、ほかの民間企業でも中国通信大手を遠ざける動きが広がる可能性がある。