おかげでこの日の執行は思うように進まず、日を改めて2日がかりで行うことに(結局3日かかった)。
債務者からの情報があてにならないとの理由から、次の執行予定が入るまでの間、全員総出で債務者が無いと言っていた書類をかき集め、物件を巡る関係者や賃借人にも総当たりで契約状況や債務者とのやり取り、トラブルの有無を聞き出すといった地道で過酷な外堀埋め作業を敢行。
そして2度目の執行。
今回は債務者の言葉を頼りにせずとも執行が滞りなく進められるよう、最大限の努力がしてあるため、書類の内容に不備がないかという確認作業と現場で必要な測定などを行うだけ……の予定だった。
「全部屋の鍵がない」
債務者が前回まであった各部屋の鍵を出さないという事案が発生。
執行妨害が適用できるのではと思うような引き伸ばし作戦ではあるが、債務者から次々と繰り出される偽証の延長でもあることから、機転を利かせた執行官が説得に乗り出す。
とにかく真逆の事を言うということを利用し始めたのだ。
「鍵は失くしちゃったんですか?」
「失くしてない」
「昨日はこの辺の引き出しから出してましたよね?」
「引き出しにはない」
「右の引き出しですか?」
「左だ」
この見事な誘導尋問で「右の引き出し」から各部屋の鍵束を発見するという執行官のファインプレーは、この月の珍プレー好プレー大賞に選ばれた――。
ここまでは債務者の嘘も、何かに取り憑かれた妖怪話ともとれるような、笑い話ともとれるような印象ではあるが、どうも笑ってばかりはいられない。
債務者の職業が、現職の政治家であったという点だ。
政治の現場では彼の嘘も、今回の執行官のような人物に上手くあしらわれることを願いたい。
<文/ニポポ(from トンガリキッズ) イラスト/
いらすとや>
2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
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