返納完了の3月31日まで、劣悪な環境に置かれる馬を救う動きも
何はともあれ、この劣悪な環境を放置する飼育者2戸が生き残った馬を返納することになったと聞きホッとしたものの、この飼育者のもとには返納が完了するまで宮古馬を置いておくことすら適切だとは思えない状態だ。
この件について島内の関係者から連絡を受けていた、国連生物多様性の10年市民ネットワークの坂田昌子さんは、担当部署である宮古島市生涯学習教育課に今後のスケジュールを聞いたという。坂田さんはこう話す。
「担当者は『次回の更新日が来年3月31日なので、その時に返納となる』と答えました。『S氏とN氏のもとに、あと3か月半も置いておくわけにはいかない! その間にまた殺されたらどうするんですか?』と聞くと、『12月19日に保存会で緊急会議を持つので、そのあたりのことも含めて自主返納の方法やそれにかかる予算調整を行います』という返事でした」
S氏の馬房で、つながれて骨折した仔馬。このような処置をされ、さらに弱っていった
今現在、S氏のもとには1頭、N氏のもとには3頭の宮古馬が残っている。12月19日の保存会の会議しだいでは、この4頭の宮古馬たちの命は3月31日まで危機的な状況に置かれたままになるかもしれないのだ。
「S氏とN氏の手から馬たちを一刻も早く引き離したいので、飼育のひどさについて把握していたのかと尋ねました。そうすると『「週刊SPA!」で使われていた写真は古いもので、市は改善するように指導してきたし、今は綱を外している』と。
だからあの記事は昔の話で、現在の事実とは違うと担当者は言うんですね。『繋ぐのをやめたのはいつですか?』と聞くと、正確にはわからないとのことですが、そんなに前の話ではないそうです。
後で現地の方に確認を取ったのですが、当時の担当部署であった畜産課に、虐待に気づいた人たちから、何度も何度も綱でつなぐのをやめるようにとの抗議がきていたそうです。そしてやっと今年の初め頃に実現したとのこと。『写真は古いもの』と言いますが、つい最近までつながれたままだったのに『事実とは違う』と言われても……」(坂田さん)
現場確認した担当者は、餓死直前の馬を見ても見抜けず
N氏のもとにいた肉用ポニー。風雨にさらされている(2018年11月)
市は、「飼育者に飼育環境の改善を指導してきた」として責任を回避したいようだ。だが、どう改善されたのか? 現場の確認はちゃんと行われていたのだろうか?
「月に1度か2度は現場確認をしているとのことです。しかし、S氏が餓死させた母馬も担当者は見に行ったそうですが、『けっこう痩せていたけれど、子を産んだばかりで栄養を取られているせいかな』と思ってしまったとのことです。この担当者が現場を見に行った後、すぐに餓死しているんですね。見ても状態がわからない人が確認に行っても、意味がありません。
何より問題なのは、担当者の方が『宮古島では昔は農耕馬だったので、外で十分運動しているため放牧の習慣もないし、N氏のような飼い方が普通だったので虐待ではない』と言い切ることです。糞尿まみれの狭い馬房につなぎっぱなしだったり、ぎゅうぎゅう詰めで飼ったりするようなやり方を、宮古島の人たちが“普通に”やっていたとは思えません」(坂田さん)
この担当者は今年4月から宮古馬の担当になったとのこと。馬のことには詳しくないので、サイアク飼育者たちの言うことを鵜呑みにしているのかもしれない。
「そのうえ、虐待とは殴ったり蹴ったりすることだけだと思っているようでした。動物愛護法では、家畜やペットに水や餌を与えず、不潔な環境のまま放置するといった『ネグレクト』(飼育放棄)は虐待であり、処罰の対象とされていることを知らないのでしょうか」(坂田さん)