人が死んだという事実についてヘラヘラ笑いながら答える異常
この質疑の前日、「明日は法務委員会、2時間出てややこしい質問を受ける」という耳を疑うような発言をしたことが報じられていた総理。(参照:
朝日新聞、
産経新聞)
有田議員はこの発言を引用して「ややこしい質問をお聞きします」と宣言した上で、「具体的なことを聞いてんじゃないんですよ。溺死とか自殺とか、そういうことがあるのに法務省が分からないという態勢を総理はどうお考えですか」と質問する。しかし、先に答弁に立ったのは
またも山下法相であった。(動画の4分37秒~)
「
ご指名です。あのー、
先ほどですねー、一覧表においては、あー、
そういう風な記載をしておりますが、あ、あのー、
ある程度の情報は来ております。ただ、それにつきまして、やはり人の死亡という、非常にプライバシーに関わる問題でございますので、えー、あのー、
全てつまびらかに出来てないというところでございます。それが前提でございます。」
再び前提を説明し始めた山下法相。
答弁を求めた本人ではない上、論点を以下のようにすり替えており、
赤信号。
有田議員の質問:
実態を把握してないことの総理大臣の総括
山下法相の答弁:
実態を公開できない理由
続いて、安倍総理が答弁する。
「あのー、
私ま、
その表も見ておりませんから、え、
お答えのしようが無いわけでございますが、あの、えー、
亡くなられた、あー、
事案。今、溺死された方が、えー、その、
3名ですか? 3名おられるという、うー、ま、
ご指摘でございますが、私は、ま、
その事実をしら、あの、えー、
その表も知りませんし。えー、
その事実がですね、果たしてどういう結果そうなったか。実際3名おられるのかどうかも含めてですね、えー、じゃあ、どういう結果でそうなったかということについても、えー、
これは、えー、
存じ上げませんので、えー、
お答えのしようがないわけでございますが。」
安倍総理の1段落目、またも以下のように論点をすり替えている。
有田議員の質問:
実態を把握してないことの総理大臣の総括
安倍総理の答弁:
死亡理由の詳細
有田議員は質問の際に「具体的なことを聞いてんじゃない」と念押ししたにも関わらず、「どういう結果そうなったか」などにすり替えている。
さらに、質問中に何度も例に挙がっていた
溺死者の人数が誤っており(正:7名、誤:3名)、
認識不足とも言える。
「ま、
これは、あのー、
法務省においてですね、もしそれが、えー、
異常な数値であれば当然それはどうしてそうなったかということは、あの、えー、
対応していくことになるんだろうと、え、こう思うわけでございますが、」
安倍総理の2段落目、質問には回答していると判断して青信号とした。ただし、
死亡者の人数のことを「数値」と表現しており、事態の重さを理解できていないのか、もしくは人が死んだこと、外国人の技能実習生が死んだことなど「数字」としてしか考えていないのではないかと不安になる。
「
いずれに致しましても、今までのですね、えー、ま、
実習制度等々あるいは、え、
留学生の方々がアルバイトで働くこと等々においてですね、ま、
様々なご指摘が、ま、
ございました。そういうご指摘を踏まえた上で、えー、
今回、新たな制度を作りですね。えー、ま、
法務省の中において、えー、
出入国在留管理庁を作ってですね。しっかりと直接ですね、そこが指導監督を行っていくことになるんだろうとこう思います。」
安倍総理の3段落目は
「いずれに致しましても」という
論点ずらしの最初に現れる典型的なフレーズから始まっている。実際、論点ずらしであり、
赤信号。
有田議員の質問:
実態を把握してないことの総理大臣の総括
安倍総理の答弁:
新制度の概要
その中身は、出入国在留管理庁など新たな制度の宣伝に終始している。
結局、
69名もの若い技能実習生が死亡し、しかもその実態を把握できていない事実について、安倍総理から具体的な回答はないまま質疑は終了した。
そして、この質疑の翌日(7日)深夜から翌々日(8日)未明にかけて、入管法は与党の賛成多数で可決、成立した。審議時間は約35時間と重要法案としては短い上、本記事で視覚化したように審議では議論どころか会話が成立していない場面が多々あるような状況だったにも関わらず、だ。
外国人労働者の人権のみならず、日本の労働者、あるいは国のあり方にまで関わる法案が、一部の財界人の要求に応じるためだけに、拙速に、かつこのような不誠実な答弁で行われたことについて、有権者は決して忘れてはならないだろう。
<文・図版・動画作成/犬飼淳 TwitterID/
@jun21101016>
【犬飼淳氏】
サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。最近は「赤黄青で国会ウォッチ」と題して、Youtube動画で国会答弁の視覚化に取り組む。
犬飼淳氏の(
note)では数多くの答弁を「信号無視話法」などを駆使して視覚化している。また、同様にYouTubeチャンネル(
日本語版/
英語版)でも国会答弁の視覚化を行い、全世界に向けて発信している
TwitterID/
@jun21101016
いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身の
noteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。
noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(
日本語版/
英語版/
仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。