厚労省による高プロ説明文書、その杜撰な中身に労働弁護団らが撤回と修正を要求
制度の本質を正しく伝えず 労働者を「引っ掛け」る内容
第三の問題点は、制度の本質を正しく伝えていない点だ。
高プロ制の本質は、「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない」(改正労基法41条の2)とあるように、労働基準法の労働時間規制を適用除外することである。しかし、その本質的な規定が適切に説明されていないのである。
このリーフレットでは、「新たな規制の枠組みを設ける」と、どうとでも取れるようなことが書いてあるだけで、時間外や休日労働の規制や残業代などの割増賃金がなくなることがわかりやすく示されていないのである。周知を目的に配布されるリーフレットであるにも関わらず、だ。
また、同リーフレットでは、盛んに「自由な働き方」を喧伝しているが、これも本質とは異なるというのが第四の問題点だ。
法律の条文を見ても、どこにも時間配分の指定をしない旨も記載されていないし、出退勤の時刻の自由も保証されていない。現在、労働政策審議会労働条件分科会で裁量性を確保するための規定が検討されてはいるものの、その内容はまだ確定していないのが現状だ。
そして第五の問題点がQ&Aの悪質な回答だ。
同リーフレットには、Q&Aとして以下のようなやり取りが記載されている。
【Q】高度プロフェッショナル制度で、みんなが残業代ゼロになる?
【A】高度プロフェッショナル制度の対象は、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職のみです。制度に入る際に、対象となる方の賃金が下がらないよう、法に基づく指針に明記し、労使の委員会でしっかりチェックします。
まず、問いの立て方がおかしい。「みんなが残業代ゼロになる?」などいうことを反対派は懸念しているわけではない。高プロの対象者が残業代ゼロになる、として反対しているのだ。
なのに「みんなが残業代ゼロになる?」と誤った問いを立てて、「高度プロフェッショナル制度の対象は、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職のみです」と、懸念を払しょくした風を装おう。あまりに不誠実だ。もしこの問いに誠実に答えるなら、
「みんなが残業代ゼロになるわけではありませんが、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職の方については、高度プロフェッショナル制度の対象者となった場合は、残業代は支払われなくなります」
と回答するのが筋であろう。
厚生労働省は新制度の内容を適切に周知する役割を負っているわけで、その厚生労働省がこのような誤解を招く表現ばかりのリーフレットを、何も決まっていない段階から作成・配布したのは大きな問題なのである。
このような問題点について、上西教授と日本労働弁護団は、具体的な修正案を提示して、元の文書の撤回と修正した新リーフレットの作成を求めるという。
棗弁護士は会見でこう語った。
「実際の条文は、我々法律の専門家が見ても理解しにくい内容です。現場の労使は、条文を見て交渉するのではなく、こうしたリーフレットを見て交渉するんです。これで交渉するんです。それなのに、”など”とか”自由な働き方”などと書いてあったら、労働者は誤解します。なので、直ちに撤回して、労政審で書き換えるとアナウンスして頂きたい」
政治家の不誠実な「ご飯論法」で成立した高プロ制。厚労省にまでも「ご飯論法」で不誠実な説明をすることを許してはならないだろう。
<文/HBO取材班>
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