改正入管法が成立したらどうなるか? 問題点を放置したままの拙速な議論を許すな

外国人労働者への偏見が蔓延し、日本社会が分断される

 さてそれでは、この改正入管法が可決・成立し、施行されてばどうなるだろうか?  入管法改正で起こり得ること、第一に、しばしば言われるのは「治安の悪化」である。これは、排外主義的な観点から移民反対を唱える右派がよくいう話だが、実際のところ「外国人が増えると犯罪が増加する」かというような事実はない。警察庁の統計でも明らかだということは以前の記事でも報じた。  ただ、低賃金で過酷な労働条件に加えて、虐待や暴行などがある職場に連れてこられた外国人労働者は、失踪することを余儀なくされるであろう。そうした失踪した外国人労働者は頼る場所もない。彼らを待ち受けているのは、良くて「合法業種への不法就労」、最悪の場合は、犯罪組織などにリクルートされる。  つい最近、脱走した技能実習生を摘発する入管職員を、あたかも「正義の味方」かのように報じる入管プロパガンダ番組が放映されたが、このように外国人労働者が脱走した背景やその根底にある問題について何ら報じずに、ただただ外国人を悪者として報じるメディアによって、なんら疑いもなくこうした番組を見る層の中で確実に外国人労働者のイメージが悪化し、「雰囲気としての治安悪化」が蔓延していくことになるのだ。  「外国人受け入れで治安悪化」のイメージが醸成されるとどうなるか。すでに諸外国でも明らかだが、排外主義が大手を振っては蔓延ることになるだろう。そして社会は分断されることになる。この結果こそが真の意味での「治安の悪化」なのである。

親日国でも反日感情が増し、日本の国際的孤立を招く

 また、現在技能実習生を巡るような環境がなんら改善されることなく、受け入れだけが拡大したらどうなるか。  2015年の龍谷大の調査によれば、ベトナム人技能実習生を対象にしたアンケートで、来日前に97%が日本に好印象を抱いていたのが、来日後は40ポイント減少し、その一方で来日前は一人も選ばなかった「印象はあまり良くない」が37%になったという。  これを見れば一目瞭然だろう。大幅に外国人労働者を受け入れたはいいが、人権無視で契約にないような労働までやらされたり、暴行・虐待を受けたりして、親日感情を抱いて来日した外国人の若者に、嫌日感情を植え付けて国に返すという、目も当てられない制度が出来上がるのだ。  いままで以上に多くの外国人労働者を受け入れて、その多くが日本で嫌な思いを受けて国に帰ったとき、果たしてその国全体における日本のイメージはどうなるか? 容易に考えが及ぶ。  いま、戦時中の徴用工の問題が日韓の間に影を落としているが、奴隷的労働を強いられる入管法改正が、将来的に何らかの国際問題に発展しかねないのは否定できないだろう。  また、分断によるヘイトスピーチなどが横行すれば労働者受け入れとは無関係な先進国からも日本はレイシズムが横行する非人権的な国というレッテルを貼られ、国際的な孤立は免れなくなるだろう。

日本人労働者の賃金も上がらなくなる

 さらに注目したいのは、「人手不足による財界からの要請」でこの入管法改正が進められたことだ。  人手不足とはいうが、それは主に企業側が正当な賃金を払わないから起きているだけの話だ。財界はずっと賃金上昇を抑えるために正規雇用ではなく非正規雇用を増やすことで労働力を確保しつつ賃金を安く抑えるために動いてきた。それをついに非正規雇用でも日本人が集まらなくなってきたのを外国人に頼ろうというのがこの入管法改正の目的なのだ。  単純労働分野を外国人労働者が補うようになればどうなるか? 日本人の賃金も上昇することはなくなる。「人手不足だからこそ賃上げを」と要求すべきところを、外国人労働者の受け入れで賄えてしまえばその要求は通らなくなるのは間違いない。  この入管法改正の問題は、単に人権問題だけではないことを日本の有権者も認識するべきだろう。  SNSなどでは、外国人技能実習生が低賃金・過酷な労働条件で働かされている現状について「ブローカーに騙されるやつが悪い」などという声が散見したが、外国人どころではなく日本人の労働者も体よく騙されていることを知ったほうが良い。  ざっくりとだが、現行の技能実習制度の問題点が放置されたまま、外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管法が施行されたときに起こり得ることをシミュレートしてみた。
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どうすれば建設的な受け入れが可能か?
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