しかし、当のジブラルタルの人々はどうなのかというと、英国でBrexitが決まった国民投票を実施した時に、33500人のジブラルタル住民はEUに残留賛成が96%を占めるという投票結果になっていた。
ただ、ジブラルタルと英国の絆は強い。2002年の住民投票では90%の住民が英国にこのまま属することを希望すると回答していたことからも、ジブラルタル住民は「英国領」という意識のほうが強く、スペインに帰属する意識は薄い。
さらに、ジブラルタルのファビアン・ピカルド首相も、「我々はEUに残留することに圧倒的に支持したものの、ジブラルタルは英国と一緒にEUから離脱する。なぜなら我々の英国との関係が法の支配のもと我々の安全と繁栄と確信を保障してくれるからである」と述べている。(参照:
「La Razon」)
しかし、実はスペインが領有権を強く主張できない背景もある。
ジブラルタルと地続きのスペインのアンダルシア州、カディス県の都市であるリネア・デ・ラ・コンセプシオン市から、およそ8500人がジブラルタルに勤務で毎日往復している。同市のGDPの50%はジブラルタルに依存しているという。しかも、アンダルシア州が失業率が高いように、同市も32.75%の失業率を抱えているのだ。
スペイン政府が領有権を主張すればするほど、ジブラルタルの政情に影響するようになり、それが経済に波及して8500人の雇用にもマイナス影響する可能性があるということだ。ただでさえ、ジブラルタルが英国のEU離脱に伴ってジブラルタルもEUから離脱すれば、それがジブラルタルの商業にマイナス影響するのは確実である。更に、英国がEUから離脱すればシェンゲン協定も無効になることから、リネア・デ・ラ・コンセプシオン市からジブラルタルに働きに行く人たちがこれまで通り自由に通行できるのかという疑問も未解決のままである。そのような事情もあって、スペインは領有権を強く主張して事を荒立てることは控えたいというのがスペイン政府の考えでもあった。(参照:「
La Vanguardia」)
更に、ジブラルタルの領有権を主張すれば、スペインが北アフリカの先端に占領しているセウタ市とメリーリャ市についてモロッコがその領土の領有権を強く要求してくる可能性もあるのだ。