そこで、前出の文書に記載された自由民主党憲法改正推進本部事務局の連絡先にメールと電話双方で取材を申し込んでみた。「この文書が想定する『共鳴する市民団体』とは、やはり日本会議のことなのか?」を確認するためである。
しかし、締切時点で、自民党憲法改正推進本部からは、メールの返事はない。また、文書に連絡先として記載されている電話番号にも数度電話をかけたが(番号そのものは自民党党本部の代表番号。そこからの内線転送となる)、その度にコール音がなるのみで、交換台に戻され「誰もいないようです」の返事が返ってくるのみだ。
あの文書を起案した自民党憲法改正推進本部の見解は直接確認できなかったが、現実問題として、全国横断的に自民党と共同歩調で改憲運動を展開できる市民団体となると、規模から見ても実績からみても、
日本会議以外存在しないのは先に振り返った通りだ。
また、今次の臨時国会で自民党が国会の憲法審議会に上程しようとしている所謂「改憲4項目」の内容が、自民党が野党時代に自民党の総意として作り上げた「平成24年度版自民党憲法改正草案」とは全く別物の、いわば「安倍首相の腹案」程度のものであるということも注目に値しよう。なんとならば、安倍首相がこの「腹案」を初めて表明したのは、自民党内部の会合でも国会でもなく、日本会議が昨年5月に開催した「第19回 公開憲法フォーラム」に寄せたビデオメッセージのことだったからだ(なおこのイベントの共催は「美しい日本の憲法をつくる国民の会」と「民間憲法臨調」ということになっているが、両団体とも日本会議が改憲運動で擬態するためのフロント団体に過ぎない)。
ということは……。
目下、安倍首相とその側近が、半ば自民党のこれまでの改憲議論を完全に無視して推し進めようとしている改憲作業とは、日本会議の各地方支部と共同歩調をとって推し進められるものであり、その内容は、安倍首相が自民党内部ではなく、日本会議と真っ先に共有した内容のものである……という結論以外は考えられないではないか。
だとすれば彼らは、「日本会議と自民党の共同作業」として、改憲作業を推し進めようとしているわけだ。
しかも、こうした動きが自民党の中で議論された形跡は一切ない。党の総意を諮る総務会で議論された形跡もない。
匿名を条件に取材に応じてくれた自民党の衆議院議員は、「4項目4項目って騒いでいるけど、紙切れ一枚回ってきただけで、そんなもん議論もなんもないよ」と突き放し気味に語ったほどだ。
自民党の正規の手続きからいえば、彼らの所業は、現状、総理総裁である安倍晋三と、下村博文などの腹心たちが、党内の民主的な意思決定を経ることなく独断で進めているものと言わざるを得ない代物に過ぎない。
党内の手続きさえ軽視するこの改憲作業が、国会に上程されようとしている。その後にどのような議論が展開されようとも、出発時点で身内の合意さえ得られていないような代物が、国家の手続き論を定める憲法の草案として不適切なものでしかないことなど、火を見るよりも明らかだろう。
<取材・文/菅野完>
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『
日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。現在、週刊SPA!にて巻頭コラム「なんでこんなにアホなのか?」好評連載中。また、メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(
https://sugano.shop)も注目されている
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