しかし、安倍首相とその側近たちによる改憲への取り組みは止まるところを知らない。
その中でもとりわけ前のめりな姿勢を示すのが、下村博文だろう。先述のとおり自民党の「憲法改正推進本部」の本部長に就任した直後から活発な動きをみせている。去る10月26日には、山口泰明組織運動本部長と連名で「各選挙区支部における『憲法改正推進本部』の設置等について(要請)」なる文書を全国の衆議院選挙区支部長宛に発行した。
これが取材の過程で入手した当該文書のコピーだ。
「各選挙区支部における『憲法改正推進本部』の設置等について(要請)」
この文書で下村らは、全国に289ある衆院選挙区全てに、選挙区支部長(=つまりはその選挙区から出馬している衆議院議員や候補者)を本部長とする
「憲法改正推進本部」を設置することを要請するとともに、
「我が党の憲法改正に共鳴する民間団体」の「
要請」に応えるためにも、その
「共鳴する民間団体」との連絡会議も設置することを要請している。つまり、下村らは、全国の自民党支部に「自民党の憲法改正推進本部」と「民間団体との連絡会議」の二つを同時に設置するよう要請していることになる。
しかし不思議な話ではある。全国の衆議院選挙区で選挙区支部単位の「自民党憲法改正推進本部」を設置することは可能だろう。目下のところ、自民党が候補者を擁立しない、つまりは支部のない選挙区がないわけで、全国全ての選挙区で自民党がどんな部会を立ち上げようが、自民党の一存で完結する話ではある。
しかし、「共鳴する民間団体」との「連絡会議」はそうはいかない。「共鳴する民間団体」の方でも、自民党と同じように、全国各地の選挙区で運動を展開しているという実績がなければ叶わない話だ。そうでないと、「うちの選挙区では、当該民間団体の活動実績がないので、連絡会議が設置できない」ということが発生しうる。しかし当該文書はそうした事態を前提としていない。この文書はあくまでも、
自民党の「憲法改正に共鳴する民間団体」も自民党と同じように、全国津々浦々で活動しているという前提に立っている。
全国規模で改憲運動を展開する民間団体……。となると、事実上、日本会議しかありえない。
日本会議は改憲運動のためのフロント団体
「美しい日本の憲法を作る国民の会」(櫻井よしこ・田久保忠衛・三好逹=共同代表 椛島有三=事務局長)を通じて、すでに北は北海道南は九州沖縄までに渡る「全国キャラバン運動」や改憲に賛同する署名1000万筆を集める署名運動などを全国規模で展開し、改憲国民投票に向けて有権者各層からの支持取り付け活動を行なっている。また、日本会議の支部は2018年10月現在著者が確認しているだけでも全国に239箇所存在している。
確かに、改憲を目指して活動する市民団体は日本会議以外にも複数存在するが、「全国各地の支部」「全国横断的な活動実態」という実績からみれば、先の文書で自民党の「憲法改正推進本部」が想定する「共鳴する市民団体」「全国の自民党支部と連絡会議を設置」できる市民団体となると、日本会議以外みあたらないのが事実だ。