安田純平さん記者会見での微表情を分析。そこから見える、犯行グループへの複雑な思いとは?

会見する安田氏

Photo by Toshifumi KITAMURA / AFP=時事

 こんにちは。微表情研究者の清水建二です。本日は3年4ヶ月もの監禁生活から解放され、11月2日に会見を行った安田純平氏の表情を分析し、考察したいと思います。  今回の分析に用いた動画は、「安田純平さん 帰国後初会見 ノーカット#1~17(181102) 」です。  結論から書きます。会見全体を通して、安田氏の言葉により語られた個々の体験描写は信頼性が高いと判断します。  しかし、安田氏の感情変化から会見の場では語り切れず今後の精査を待つ必要がある箇所があると考えます。全体的な信頼性が高いとしても、よりよい真実を得るために深掘りすべきポイントや複数の個々の体験を結びつける線を強化する情報が必要です。  今回の表情分析からのサジェスチョンは、シリア入りする経緯と犯行グループの名前についての記録・記憶が深堀りすべき精査ポイントであるということです。  最初に、安田氏の個々の体験描写は全体的に言語分析による信頼性判断基準を満たして言えます(本稿は「清水建二の微表情学」ですので表情以外の分析観点についての詳細は省きます)。  信頼性判断基準とは、論理一貫性のある描写・豊富な五感情報と空間情報・豊富な連鎖的(人物が交錯しながら登場し語られる)描写・複雑かつ長い文構造・自発的追加及び訂正情報の存在・叙述的描写・自己に不利になり得る情報の積極的開示、等々です。これは真に体験したものではないと語ることが難しいとされる描写の指標です。

「語られていないこと」を可視化する

 言語分析では「語られたこと」に対してその信頼性を判断することが可能です。ただし、当然ながら言葉で直接「語られていないこと」に対する判断は不可能です。  しかし表情分析を用いることで「語られていないこと」の意味を考えることが可能になります。この場合の「語られていないこと」とは、個々の描写に付随する感情のことです。例えば、「嬉しい」と言いながら笑顔になれば、感情語と一致しており、「嬉しい」は笑顔とともに語られているため特段の注意は必要ありません。  しかし、「嬉しい」と言いながら悲しい顔になれば、感情語と不一致となり、悲しい感情は言葉では語られておらず、精査ポイントとなります。また、「昨日、私は本を買った。」と言いながら、「本」のところで驚き表情が観察されれば、その「本」に対して興味深いことが起きたことが推論されます。感情語ではない言葉に感情の重みが付けられたことになり、精査ポイントとなります。  本表情分析では安田氏が自身のどんな描写・言葉にどんな感情をなぜ抱いたのかについて、いくつかピックアップして推論したいと思います。
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シリア入りした経緯と犯行グループの名前に付随する感情
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シリア拘束 安田純平の40か月

2015年6月に取材のためシリアに入国し、武装勢力に40か月間拘束され2018年10月に解放されたフリージャーナリスト・安田純平。帰国後の11月2日、日本記者クラブ2時間40分にわたる会見を行い、拘束から解放までの体験を事細かに語った。その会見と質疑応答を全文収録。また、本人によるキーワード解説を加え、年表や地図、写真なども加え、さらにわかりやすく説明。巻末の独占インタビューでは、会見後に沸き起こった疑問点にも答える